そんな方もいらっしゃると思います。
こんにちは。
阿部整形外科クリニック院長の阿部です。
膝の治療を選ぶとき、多くの方は、
「どの治療が一番効果があるのか」
を考えます。
もちろん、それは大切です。
しかし実際の診療では、
- 仕事を何日休めるか
- 何回通院できるか
- 治療までどのくらい待てるか
- 旅行や出張の予定があるか
- 治療にどのくらい時間を使えるか
といった、 「時間」 も治療選択を左右する大切な要素です。
阿部整形外科クリニックでは、膝の自由診療の新しい選択肢として、歯髄由来・幹細胞培養上清液の関節内投与を導入予定です。
当院では膝関節に1回15mLを使用する方針です。
そしてPRPとの大きな違いの一つが、
患者さんご本人の採血を必要とせず、当院でPRP治療前に行っている感染症検査も治療前提としていないため、診察で適応を確認できれば、その日に治療まで進められる場合があることです。
ただし、ここで最初に大切なことをお伝えします。
幹細胞培養上清液は、変形性膝関節症に対して有効性や安全性が確立された標準治療ではありません。
また、
「軟骨が再生する」
「一度打てば治る」
「PRPより効果が高い」
と断定できる治療でもありません。
今回は、歯髄由来・幹細胞培養上清液とは何なのか、PRPとどう違うのか、そして当院がなぜこの治療を新しい選択肢として考えているのかを、メリットだけでなく限界も含めてお話しします。
- そもそも「幹細胞培養上清液」とは何ですか?
- 当院では「歯髄由来」を使用します
- 膝には1回15mLを使用します
- 一番の違いは「当日治療まで進められる場合がある」こと
- ただし「来院したら必ず当日注射」ではありません
- PRPとは何が違うのでしょうか?
- PRPの方がよい人もいます
- 幹細胞培養上清液を相談しやすいのは、こんな方です
- どんな膝にも使えるわけではありません
- 効果について、現時点でどこまで分かっていますか?
- 安全性についても、メリットだけでは説明しません
- この治療は「標準治療の代わり」ではありません
- もし自分の家族から「今日治療したい」と相談されたら
- 治療を早くすることがゴールではありません
- まとめ|「時間」も治療選択の大切な要素です
- よくある質問
- 参考情報
そもそも「幹細胞培養上清液」とは何ですか?
「幹細胞培養上清液」
名前だけ聞くと、
「幹細胞を膝に注射する治療なのかな?」
と思う方もいるかもしれません。
しかし、これは違います。
幹細胞培養上清液は、幹細胞そのものを関節内に注射する治療ではありません。
幹細胞を培養すると、培養液の中には細胞から分泌されたさまざまな物質が含まれます。
細胞を取り除いたあとの液体部分が、一般に 「幹細胞培養上清液」 と呼ばれています。
研究段階では、こうした培養上清液の中に、
- サイトカイン
- 成長因子
- 細胞外小胞
- その他さまざまな分泌物
が含まれる可能性があり、炎症や組織環境との関係が研究されています。
ただし、培養方法や製品によって含まれる成分は一定ではありません。
そのため、
「幹細胞培養上清液」という名前だけで、すべて同じ製品・同じ治療と考えることはできません。
当院では「歯髄由来」を使用します
幹細胞培養上清液には、幹細胞の由来によって、
- 脂肪由来
- 臍帯由来
- 歯髄由来
などがあります。
阿部整形外科クリニックでは、 歯髄由来の幹細胞培養上清液 を使用する予定です。
歯髄とは、歯の内部にある組織です。
ただし、
「歯髄由来だから他の由来より膝によく効く」
と断定できる十分な臨床データがあるわけではありません。
基礎研究では歯髄由来幹細胞の培養上清について炎症や軟骨・骨組織との関係が研究されていますが、ヒトの変形性膝関節症に対する臨床データはまだ限られています。
そのため当院では、
由来だけで効果を強調するのではなく、製品の品質管理、患者さんの膝の状態、これまでの治療歴を含めて治療を判断します。
膝には1回15mLを使用します
阿部整形外科クリニックでは、膝関節に対して 1回15mL の幹細胞培養上清液を投与する方針です。
ただし、15mLという数字について一つ注意があります。
現在、
「膝関節に幹細胞培養上清液を15mL投与するのが医学的に最も優れている」
という標準的な投与量が確立されているわけではありません。
幹細胞培養上清液は製造方法、濃度、含有成分などが製品によって異なるため、投与方法についても統一された基準がありません。
当院では、使用する製品の仕様などを踏まえ、 膝関節に1回15mL という治療設計で導入する予定です。
一番の違いは「当日治療まで進められる場合がある」こと
今回の治療を導入するうえで、僕が注目しているのが 治療までの時間 です。
当院で予定している流れは、
- 医師による診察
- レントゲンなどで膝の状態を確認
- 治療内容・限界・リスク・費用などをご説明
- 適応があり、ご本人が希望された場合に治療
です。
状態によってはMRIなど追加検査が必要になることもあります。
しかし、すでに診断がついていて、医師が治療適応を確認でき、ほかに優先すべき治療がなければ、
診察したその日のうちに、関節内注射まで行える場合があります。

ただし「来院したら必ず当日注射」ではありません
ここは非常に大切です。
「当日治療も可能」
という言葉だけを見ると、
「予約して行けば、そのまま注射してもらえる」
と思われるかもしれません。
でも当院では、
治療より診断を優先します。
たとえば、
- 感染症が疑われる
- 骨折が疑われる
- 強いロッキングがある
- 手術を優先した方がよい
- まずリハビリを行うべき
という場合には、その日に幹細胞培養上清液を注射しないことがあります。
「当日できる」という利便性よりも、
「その治療が本当に必要なのか」
を優先します。
PRPとは何が違うのでしょうか?
当院では、すでに膝のPRP治療を行っています。
そのため、
「PRPと幹細胞培養上清液、どちらを選べばいいですか?」
という質問は今後増えると思います。
僕は、
「どちらが優れているか」ではなく、「何を優先するかが違う治療」
と考えています。
| 比較項目 | PRP | 歯髄由来・幹細胞培養上清液 |
|---|---|---|
| 使用するもの | 患者さん自身の血液から調整したPRP | 当院では歯髄由来幹細胞の培養上清液 |
| 患者さんの採血 | 必要 | 不要 |
| 当院での事前感染症検査 | 実施 | PRPと同じ事前検査は治療前提としていません |
| 治療までの流れ | 検査結果を確認して治療日を設定 | 適応があれば当日治療を検討可能 |
| 膝OAの臨床研究 | 比較的多い | 現時点では限定的 |
PRPの方がよい人もいます
僕は幹細胞培養上清液を導入するからといって、PRPからこちらへ治療を置き換えたいわけではありません。
むしろ、PRPには大きな特徴があります。
自分自身の血液を利用して治療すること。
そして、変形性膝関節症に対するPRPについては、幹細胞培養上清液よりも臨床研究が蓄積されています。
治療まで多少時間がかかっても、
「自分の血液を使用した治療を受けたい」
という方には、PRPが合うことがあります。
幹細胞培養上清液を相談しやすいのは、こんな方です
当院では、たとえば次のような方に、この治療について説明することを考えています。
- 何度も通院する時間を取りにくい
- できるだけ早く治療を開始したい
- 出張や旅行など予定が詰まっている
- 手術以外の治療を検討したい
- これまでの保存療法で十分な改善が得られていない
- PRPとほかの自由診療を比較して選びたい
つまり、
「お金よりも時間を優先したい」という価値観を持つ方にとって、検討しやすい特徴を持つ治療
だと考えています。
ただし、これは 「このような方には必ず効く」 という意味ではありません。

どんな膝にも使えるわけではありません
「膝が痛い」
と一言で言っても、原因はさまざまです。
- 変形性膝関節症
- 半月板損傷
- 膝軟骨下脆弱性骨折
- 靱帯損傷
- 結晶誘発性関節炎
- 感染性関節炎
などがあります。
骨折や感染症に培養上清液を注射して治す、というものではありません。
また、高度な変形性膝関節症で日常生活障害が強い場合には、人工膝関節などの手術を検討した方がよいこともあります。
僕は、
「幹細胞培養上清液を受けたいから、その適応に当てはめる」
のではなく、
「まず診断し、その人に必要な治療の中に培養上清液という選択肢があるかを考える」
という順番を大切にします。
効果について、現時点でどこまで分かっていますか?
ここは最も慎重に説明すべきところです。
幹細胞由来の培養上清液やセクレトームについては、変形性関節症に対する研究が進められています。
基礎研究や動物実験では、炎症や軟骨細胞などに関するさまざまな作用が報告されています。
一方で、
ヒトの膝関節症に対して、歯髄由来幹細胞培養上清液の有効性や適切な投与量、長期的な安全性が十分確立されているわけではありません。
研究の多くはまだ実験段階で、人の関節での安全性・有効性についてさらなる研究が必要とされています。
そのため、
- 必ず痛みが取れる
- 軟骨が再生する
- 人工関節を避けられる
- PRPより優れている
といった説明は行いません。
安全性についても、メリットだけでは説明しません
「幹細胞そのものが入っていないなら安全ですよね?」
と思われるかもしれません。
しかし、
「細胞が含まれていない=リスクがない」
とは言えません。
関節内注射自体に、
- 注射時の痛み
- 一時的な腫れ
- 症状の増悪
- 感染
などのリスクがあります。
さらに、幹細胞培養上清液は、製品によって製造方法・品質管理・成分が異なります。
だからこそ、
どの製品を使用するか
は、とても重要だと考えています。
この治療は「標準治療の代わり」ではありません
変形性膝関節症の基本治療としては、
- 運動療法
- リハビリテーション
- 体重管理
- 薬物療法
- ヒアルロン酸注射など
があります。
そうした治療を飛ばして、
「新しい治療だから培養上清液にしましょう」
という考え方ではありません。
PRPも幹細胞培養上清液も、
患者さんの状態と希望を踏まえて検討する、治療選択肢の一つです。
もし自分の家族から「今日治療したい」と相談されたら
もし自分の家族が、
「仕事が忙しくて何回も病院に行けない」
「できれば今日治療までしたい」
と言ったら、僕ならまず、
治療より先に診断をします。
そのうえで、
- リハビリで十分なのか
- ヒアルロン酸を試すべきなのか
- PRPが向いているのか
- 幹細胞培養上清液を検討してよいのか
- 手術を考えた方がよいのか
を整理します。
そして複数の選択肢があるなら、
「あなたは何を優先しますか?」
と聞きます。
エビデンスなのか。
自分の血液を使うことなのか。
費用なのか。
治療までのスピードなのか。
通院回数なのか。
答えは患者さんによって違います。
治療を早くすることがゴールではありません
「当日治療できる」
これは確かに便利です。
でも、
治療を早くすることそのものが目的ではありません。
本当に大切なのは、
「旅行へ行きたい」
「仕事を続けたい」
「ゴルフをしたい」
「孫と歩きたい」
といった、 患者さんが取り戻したい生活 です。
だから僕たちは、
「今日、注射できますか?」だけではなく、「その治療で何を取り戻したいですか?」まで一緒に考えたい。
そう思っています。
まとめ|「時間」も治療選択の大切な要素です
- 幹細胞培養上清液は、幹細胞そのものを注射する治療ではありません
- 当院では歯髄由来の幹細胞培養上清液を使用予定です
- 膝には当院の治療設計として1回15mLを使用します
- 患者さん本人の採血は不要です
- 当院のPRPで行っている事前感染症検査は治療前提としていません
- 診察で適応を確認できれば、その日に治療できる場合があります
- PRPには膝OAに対する臨床研究が比較的多く、両者を単純に優劣で比較することはできません
- 幹細胞培養上清液の膝への臨床エビデンスはまだ限定的です
- 「軟骨が再生する」「必ず効く」と断定できる治療ではありません
膝の治療には、
効果、費用、安全性、エビデンス、そして時間。
さまざまな判断材料があります。
まずは、
「自分は何を一番大切にして治療を選びたいのか」
から一緒に整理してみませんか。

できるだけ早く膝の治療を始めたい方へ
阿部整形外科クリニックでは、まず膝の状態を診察し、必要な検査を行います。
そのうえで、
保存療法・リハビリテーション・ヒアルロン酸注射・PRP・歯髄由来幹細胞培養上清液、そして必要な場合には手術まで、複数の選択肢をご説明します。
「仕事を何度も休めない」
「できるだけ早く治療したい」
「PRPと培養上清液の違いを知りたい」
という方もご相談ください。
よくある質問
Q1.本当に初診当日に注射できますか?
診察で治療適応を確認し、追加検査や他の治療を優先する必要がなく、治療内容・リスク・費用について十分にご理解いただいた場合には、当日に治療できることがあります。すべての患者さんが当日治療できるわけではありません。
Q2.感染症検査は必要ありませんか?
当院のPRP治療で実施している患者さん本人の事前感染症検査は、幹細胞培養上清液治療の前提とはしていません。ただし、診察で感染症が疑われる場合などには治療を行わず、必要な検査や治療を優先します。
Q3.膝には何mL注射しますか?
当院では膝関節に1回15mLを使用する予定です。なお、15mLが医学的に唯一の最適量として確立しているという意味ではありません。
Q4.PRPより効果がありますか?
現時点では、歯髄由来幹細胞培養上清液がPRPより優れていると断定できる十分な臨床データはありません。PRPは自己血を利用し、膝OAについての臨床研究も比較的多い治療です。一方、培養上清液には患者さん本人の採血を必要とせず、当院では治療までの時間を短縮しやすいという特徴があります。
Q5.軟骨は再生しますか?
現在のところ、幹細胞培養上清液によって失われた膝軟骨が必ず元通りに再生すると断定できる臨床的根拠はありません。当院でもそのような説明は行いません。
Q6.保険診療ですか?
自由診療となる予定です。費用は正式導入時にホームページ等でご案内します。
この記事の監修
阿部整形外科クリニック
院長 阿部 瑞洋
整形外科診療、運動器リハビリテーション、膝・股関節疾患、PRPなどの自由診療に取り組んでいます。
「自分や家族ならどうするか」という視点を大切にし、必要な手術は適切に提案しながら、手術以外の選択肢がある患者さんには複数の治療方法をご説明しています。
治療そのものを目的にするのではなく、 「何ができるようになりたいのか」 を患者さんと共有しながら治療方針を考えることを大切にしています。
重要なお知らせ:
幹細胞培養上清液及びその中に含まれる可能性のある細胞外小胞等については、現時点で、その有効性・安全性が示され薬事承認を得て製造販売されている医薬品はありません。当院では、治療の限界、考えられるリスク、代替治療について説明したうえで、自由診療の選択肢として検討します。
※本記事は一般的な医学情報を提供するものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。
参考情報
- 厚生労働省「幹細胞培養上清液及びエクソソーム等を用いる医療について(周知)」令和6年7月31日
- Suteja RC, et al. In Vitro and In Vivo Potential of Human Stem Cell-Derived Conditioned Medium (Secretome) and Exosomes as a Novel Treatment for Osteoarthritis: A Systematic Review of Experimental Studies. Clin Orthop Surg. 2025.


