バレエ・新体操・ダンスに取り組む子どもや学生の中で、「股関節が痛い」「足の付け根がつまる」といった声が増えています。美しい演技には柔軟性が欠かせませんが、その代償として股関節に過度な負担がかかっているかもしれません。
特に、開脚ストレッチやターン動作を日常的に繰り返すこれらの競技では、“痛み”が単なる筋肉疲労ではない可能性もあります。本ブログでは、医師監修のもと、バレエ・ダンス競技者に多い「股関節インピンジメント(FAI)」を中心に、痛みの原因と対処法を解説します。
股関節に負担がかかる動作一覧
競技の技術向上や柔軟性を追求する中で、以下のような動作が股関節に大きなストレスを与えることが分かっています。
- 開脚(前後・左右)ストレッチ:股関節の外旋・外転が過剰になる
- アラベスク・Y字バランス:後方へ脚を高く上げる動作
- ジャンプやスプリットジャンプ:着地時の衝撃が繰り返し蓄積
- ターン(ピルエット):股関節が軸となり、ひねりと負荷が集中
これらの動きは、特に成長期の子どもにとって骨や関節に大きな影響を及ぼし、長期的な股関節の機能障害や変形のリスクを伴います。
痛みの原因は筋肉ではなく骨の形かも?
「柔軟が足りないから痛い」「ストレッチが甘いせい」と思い込んでしまいがちですが、実は骨の構造的な問題が痛みの原因であることがあります。その代表がFAI(股関節インピンジメント)です。
FAIとは、股関節を構成する大腿骨(太ももの骨)と骨盤側の臼蓋(きゅうがい)が、特定の動作で物理的にぶつかってしまう状態です。ぶつかりにより、軟骨や関節唇(かんせつしん)というクッションの役割を果たす部分が損傷し、ズキッとした痛みや「引っかかる感覚」が生まれます。
FAIのタイプ
- カム型:大腿骨の形状異常が原因
- ピンサー型:臼蓋(骨盤側)が深すぎて干渉する
- ミックス型:上記両方の特徴を持つ
このような骨の形は生まれつきのケースもあり、どれだけ筋肉を鍛えても完全には改善できません。早期に気づくことで競技を続けながら対処できる可能性があります。
FAIのチェックポイント
以下のような症状に心当たりがある方は、FAIを疑ってもよいかもしれません。
- 脚を開いたとき、股関節がズキッと痛む
- 開脚やターンのとき、股関節に「つまる」感じがある
- 関節がゴリゴリ鳴る
- ストレッチをしても柔軟性が上がらない、かえって痛くなる
- 痛みで演技に集中できない、ジャンプに違和感
これらは筋疲労ではなく、構造的な問題が原因である可能性があるため、整形外科での検査(レントゲン・MRIなど)を受けることをおすすめします。
パフォーマンスを落とさず治すには?
大切なのは、「痛みを我慢して続ける」ことではなく、「適切に治療・ケアをしながらパフォーマンスを維持する」ことです。以下に、FAIや股関節障害に対する代表的な対処法を紹介します。
1. 保存療法
- 負荷のかかる動作の制限
- 骨盤周囲筋のトレーニング
- フォーム修正と運動指導
- アイシング・物理療法・リハビリ
2. 再生医療(PRP)
- 関節唇や軟骨の自然修復を促す
- 手術を回避しながら痛みを軽減
- 競技復帰が早期に期待できるケースも
3. 手術療法
- 関節鏡による骨の整形と関節唇の修復
- 競技レベルに応じた術後リハビリプラン
どの選択肢が適切かは、症状の程度・年齢・競技レベルによって異なります。まずは専門医に相談し、最適なプランを立てることが重要です。
まとめ
バレエやダンスは、見た目の美しさだけでなく、身体にかかる負担とも常に向き合わなければならないスポーツです。「ストレッチをしても痛い」「可動域が広がらない」と感じたとき、筋肉ではなく骨の問題を疑ってみる視点が大切です。
特に成長期の子どもにとって、股関節の痛みは将来の競技人生にも影響する重大なサイン。無理せず、早めに整形外科の診察を受けることで、競技継続と健康の両立が可能になります。
\ パフォーマンスを守る医療を /
当院では、FAIに対する専門的診断・再生医療・運動療法を組み合わせたサポートを行っています。
- 整形外科専門医による診察
- PRP治療の導入
- パーソナルリハビリ・ストレッチ指導