「家族から温泉に行こうと誘われても、みんなについて歩けるか心配で……」
「手術が必要だと言われました。でも、どうしても怖くて決断できません」
診察室で、患者さんからこのようなお話を伺うことがあります。
本当は出かけたい。家族との時間も大切にしたい。それでも、移動中に痛くなったらどうしよう、旅行先で歩けなくなったら迷惑をかけるかもしれない――。
そう考えて、旅行そのものを諦めてしまう方は少なくありません。
こんにちは。阿部整形外科クリニックの阿部です。
僕が最初にお伝えしたいのは、股関節が痛いからといって、すぐに人生の楽しみまで諦める必要はないということです。
もちろん、痛みの原因や股関節の状態によっては、旅行の延期や手術を検討したほうがよい場合もあります。
一方で、診断を見直し、負担のかけ方やリハビリを調整し、必要に応じて注射治療や再生医療などを検討することで、手術以外の道を選べる方もいます。
大切なのは、「手術をするか、何もしないか」という二択にしないことです。

この記事でお伝えすること
- なぜ股関節痛があると旅行が難しくなるのか
- 旅行を諦める前に確認したい股関節の状態
- 薬、リハビリ、注射、再生医療という選択肢
- 手術を検討したほうがよい状態
- 旅行という目標から治療を考える方法
股関節の痛みで、旅行が不安になる理由
旅行では、日常生活よりも長い距離を歩く場面が増えます。
駅や空港での移動、階段、坂道、観光地での立ち時間、電車や飛行機の乗り降りなど、股関節へ負担がかかる動作が連続します。
特に変形性股関節症では、初期に立ち上がりや歩き始めの脚の付け根が痛み、進行すると長時間の立位や歩行がつらくなることがあります。
患者さんの中には、旅行へ行けないほど痛いというより、旅行先で痛みが出ることへの不安から予定を断っている方もいます。
しかし、不安の正体が分からないまま、すべての活動を控えてしまうと、筋力や体力が落ち、さらに外出が難しくなることもあります。
まず必要なのは、無理に旅行へ行くことでも、完全に安静にすることでもありません。
今の股関節が、どの程度の負荷に耐えられる状態なのかを確認することです。

旅行を諦める前に確認したい7つのサイン
次の項目に当てはまる場合は、旅行の日程を決める前に整形外科で状態を確認することをお勧めします。
- 歩き始めに脚の付け根が痛む
- 以前より歩ける距離が短くなった
- 階段や坂道で痛みが強くなる
- 靴下を履く、爪を切る動作が難しくなった
- 車やバスの乗り降りがつらい
- 安静時や夜間にも痛む
- 痛みのために旅行や外出を断るようになった
これらの症状だけで、病名や進行度が決まるわけではありません。
股関節の痛みには、変形性股関節症、臼蓋形成不全、関節唇の障害、大腿骨頭壊死、腱や筋肉の障害、腰からの関連痛など、さまざまな原因があります。
だからこそ、「股関節が痛い=すぐ人工股関節」と決めつけるのではなく、まず原因を整理することが大切です。
まず必要なのは「現在地」を知ることです
診察では、痛みの場所や強さだけでなく、次のような点を確認します。
- いつから痛み始めたか
- どの動作で痛むか
- 何分、何メートル程度なら歩けるか
- 階段や乗り降りに支障があるか
- 夜間痛や安静時痛があるか
- 旅行先で何をしたいか
- これまでに受けた治療と、その反応
さらに、歩き方、股関節の可動域、筋力、脚の長さ、腰や膝の状態などを調べます。
レントゲンでは、股関節の形、関節の隙間、臼蓋形成不全、変形の程度などを確認します。
必要に応じてMRIを行い、レントゲンだけでは分かりにくい骨や軟部組織の状態を確認することもあります。
画像の変化が強くても、生活への支障が比較的少ない方がいる一方、画像上の変化が軽くても強い痛みに悩む方もいます。
治療は、画像だけではなく、患者さんが何に困っているかを含めて考える必要があります。
手術を決める前に考えられる治療
1.生活動作と負担の調整
痛みを我慢して歩き続けることも、怖がってまったく動かなくなることも、必ずしも適切とは限りません。
歩行距離、階段、仕事、スポーツなど、症状を悪化させている負荷を整理します。
旅行に向けては、観光地を詰め込みすぎず、休憩時間を確保する、荷物を軽くする、移動手段を使い分けるなどの工夫も有効です。
2.薬物療法
症状に応じて、内服薬や外用薬などを使用することがあります。
ただし、痛み止めは原因そのものを確定する検査ではありません。
薬で痛みが一時的に軽くなっても、歩行能力が低下している、夜間痛がある、可動域が狭くなっている場合は、状態の再評価が必要です。
3.運動器リハビリテーション
股関節が痛い方に、同じ運動を一律に行うわけではありません。
股関節の可動域、筋力、骨盤の動き、姿勢、歩き方を評価し、患者さんの状態に合わせて内容を調整します。
痛みを我慢して股関節を強く開くストレッチや、動画だけを見て行う自己流の運動が、すべての方に合うとは限りません。
旅行を目標にする場合は、「〇分歩く」「休憩後にもう一度歩く」「階段を安全に上る」など、実際の旅行場面に近い動作を確認します。
4.注射治療・PRP再生医療
保存療法を行っても痛みが続く場合、症状や病期に応じて注射治療を検討することがあります。
当院では、適応がある方に対して、ご自身の血液から作製した血小板を利用するPRP療法などの再生医療も選択肢として説明しています。
PRP療法は入院を必要としない注射治療ですが、すべての方に同じ効果が得られるものではありません。
股関節のPRP療法に関する研究では、痛みや機能の改善を報告するものがある一方、プラセボと明確な差を認めなかった研究もあり、医学的評価はまだ一様ではありません。
また、PRPによって著しく傷んだ軟骨が元の状態へ戻ることや、将来の手術を必ず回避できることを保証するものではありません。
大切なのは、「手術が怖いから、とにかくPRPを受ける」のではなく、病期、症状、治療歴、生活目標を踏まえて適応を判断することです。

PRP療法について
PRP療法は自由診療です。当院公式サイト掲載の料金は、PRP3回198,000円、PRP-MAX 60ml 300,000円、PRP-MAX 90ml 350,000円、PRP-FD 165,000円、PRP-FD5 270,000円です。治療内容や料金は変更される場合があるため、公開時および受診時に最新の料金表をご確認ください。
主なリスク・副作用として、採血部位の痛みや内出血、注射部位の一時的な痛み、腫れ、熱感、感染、症状の一時的な増悪などが起こる可能性があります。効果には個人差があり、改善を保証する治療ではありません。
5.手術治療
変形が進み、保存療法を行っても強い痛みが続く場合や、日常生活への支障が大きい場合には、手術が適切な選択肢になることがあります。
必要な手術を避け続けることが、患者さんにとって最善とは限りません。
痛みのために眠れない、短い距離も歩けない、仕事や日常生活を維持できない状態であれば、手術によって得られる利点とリスクを具体的に検討する必要があります。
当院が目指しているのは、手術を否定することではありません。
必要な手術は適切な時期に行い、不必要な手術はできるだけ避けることです。

「旅行へ行きたい」から治療を逆算してみましょう
治療のゴールは、レントゲンの見た目を整えることだけではありません。
患者さんが、何を取り戻したいのかが重要です。
例えば、旅行を目標にする場合でも、必要な能力は人によって違います。
| 旅行の希望 | 確認したい能力 |
|---|---|
| 温泉旅館へ行きたい | 浴槽のまたぎ、床からの立ち上がり、館内歩行 |
| 京都や鎌倉を歩きたい | 連続歩行、坂道、階段、休憩後の再歩行 |
| 飛行機で遠方へ行きたい | 空港内移動、長時間座位、乗り降り |
| 家族旅行を楽しみたい | 家族の歩行ペース、荷物、予定の余裕 |
「旅行に行けますか?」という質問に、診察をせずに一律の答えを出すことはできません。
しかし、「一日何歩歩くのか」「階段はあるのか」「途中で休めるのか」まで具体化すると、現在の課題と必要な準備が見えてきます。
旅行が決まったら、早めに準備を始めてください
旅行直前になって急に運動量を増やすと、かえって痛みが強くなることがあります。
旅行の予定が決まったら、遅くとも4週間ほど前を一つの目安として、現在の状態を確認しておくと、治療や動作練習、旅程調整の時間を確保しやすくなります。
旅行前には、次の点を確認しましょう。
- 無理なく歩ける時間と距離を把握する
- 移動と観光の間に休憩を入れる
- 階段や長い坂道を避けられる経路を調べる
- 重い荷物を持ち続けない
- 履き慣れた靴を使用する
- 処方薬は医師の指示どおり準備する
- 必要に応じて杖やカートの使用を相談する
旅程を少し調整することは、旅行を諦めることではありません。
痛みを悪化させず、最後まで楽しむための準備です。

僕が、自分の家族だったらどうするか
もし僕の家族が、股関節の痛みを理由に旅行を諦めようとしていたら、まずこう尋ねます。
「本当は、どこへ行きたいの?」
そして、その希望を実現するために、今の股関節で何ができて、何が難しいのかを確認します。
リハビリで準備できるのか。
薬や注射治療を組み合わせるのか。
PRP療法を検討する医学的な適応があるのか。
それとも、手術を先延ばしにせず、生活を取り戻すことを優先したほうがよいのか。
僕は、最初から治療法を一つに決めて患者さんへ押しつけることはしたくありません。
それぞれの選択肢について、期待できることだけでなく、限界やリスクも説明し、患者さんが納得できる道を一緒に考えます。
クリニックへ長く通ってもらうことが、僕たちのゴールではありません。
痛みのために諦めていた旅行へ行き、家族と笑顔で帰ってこられること。
そして最終的には、治療を卒業し、自分らしい生活を続けられること。
それが、僕たちの目指している医療です。

股関節の痛みで、人生の楽しみを諦めないでください
「旅行へ行きたいけれど、歩けるか不安」
「手術以外の選択肢も知ってから決めたい」
「自分に再生医療が向いているのか知りたい」
そのような段階から相談していただいて構いません。
現在の股関節の状態を確認し、保存療法、リハビリ、再生医療、手術を含めて、一緒に選択肢を整理しましょう。
お電話:0422-30-8080
よくある質問
変形性股関節症でも旅行へ行けますか?
病期、痛み、歩行能力、旅行内容によって異なります。軽度から中等度で状態が安定していれば、休憩や移動方法を工夫して旅行できる方もいます。一方、安静時痛、夜間痛、急激な悪化、体重をかけられない状態では、旅行前に診察が必要です。
旅行前に急いで歩く練習をしたほうがよいですか?
直前に運動量を急増させると、症状が悪化することがあります。現在の歩行能力を確認し、余裕を持って段階的に準備することが大切です。
股関節症と診断されたら、すぐに人工股関節の手術ですか?
診断された方全員が、すぐに手術となるわけではありません。症状、進行度、生活への影響、保存療法の経過、患者さんの希望を踏まえて判断します。
PRP療法を受ければ、手術を避けられますか?
PRP療法によって手術を必ず回避できるわけではありません。研究結果も一様ではなく、効果には個人差があります。進行度や症状を確認し、適応と限界を理解したうえで検討します。
痛みが軽い段階でも受診してよいですか?
もちろんです。早い段階で原因と状態を確認することで、生活上の注意点や適切な運動を知り、将来の選択肢を整理できることがあります。
この記事の監修
阿部整形外科クリニック
院長 阿部 瑞洋
整形外科医・股関節専門医
股関節・膝関節の保存療法、運動器リハビリテーション、再生医療に取り組んでいます。患者さんを自分の家族のように考え、必要な手術は適切に提案しながら、不必要な手術をできるだけ避ける診療を大切にしています。
※本記事は一般的な医学情報を提供するものであり、個別の診断や治療効果を保証するものではありません。症状や治療の適応は患者さんごとに異なります。強い痛み、急な症状、歩行困難などがある場合は、医療機関を受診してください。

