「足の爪を切ろうとすると、股関節の奥が痛むんです」
「年齢のせいだと思って、体が硬くなっただけだと考えていました」
診察室では、このようなお話をよく伺います。
靴下を履くことや、足の爪を切ることは、毎日の生活で何気なく行っている動作です。
そのため、少しやりにくくなっても、「体が硬くなった」「運動不足だから」と済ませてしまいがちです。
しかし、これまで普通にできていた動作がしにくくなったときは、股関節の動く範囲が狭くなっている可能性があります。
こんにちは。阿部整形外科クリニックの阿部です。
今回は、靴下を履きにくい、足の爪が切りにくいという変化と、変形性股関節症をはじめとする股関節の病気についてお話しします。

最初にお伝えしたいこと
靴下を履きにくい、爪が切りにくいという症状だけで、変形性股関節症と決まるわけではありません。
ただし、脚の付け根の痛み、歩き始めの痛み、左右差などを伴う場合は、股関節からのサインである可能性があります。
なぜ股関節が悪くなると、靴下や爪切りが難しくなるのでしょうか?
靴下を履いたり、足の爪を切ったりするには、単に腰を前へ曲げるだけでは足りません。
股関節を深く曲げ、脚を少し外へ開き、回転させる動きが必要です。
股関節の痛みや可動域の制限があると、足を手元まで引き寄せにくくなります。その結果、次のような工夫が増えていきます。
- 片脚だけ、足を反対側の膝に乗せられない
- 靴下を立ったまま履けなくなった
- 爪切りの際に体を大きく横へ傾ける
- 家族に爪を切ってもらうようになった
- 長い靴べらが必要になった
- ひも靴を避けるようになった
こうした変化は、痛みそのものより先に、「動かしにくさ」として自覚されることもあります。
変形性股関節症でみられる7つのサイン
1.立ち上がりや歩き始めに、脚の付け根が痛む
椅子から立ち上がった直後や、歩き始めの数歩で、脚の付け根に痛みを感じることがあります。
少し歩くと楽になる場合でも、繰り返すようであれば股関節の状態を確認する意味があります。
2.靴下や靴を履きにくくなった
脚を持ち上げる、外へ開く、ひねる動作がしにくくなると、靴下や靴を履く動作に時間がかかります。
左右で明らかな差がある場合は、一方の股関節の可動域が狭くなっている可能性があります。
3.足の爪を切りにくくなった
足を体へ引き寄せたときに、股関節の奥が痛む、脚が十分に上がらない、姿勢を保てない、といった変化がみられます。
無理に体をねじると、腰や膝に別の負担がかかることもあります。
4.車や自転車の乗り降りがしにくい
車に乗るとき、脚を一本ずつ手で持ち上げるようになったり、股関節の奥に引っかかりを感じたりすることがあります。
自転車をまたぐ動作や、浴槽をまたぐ動作が難しくなることもあります。
5.階段で手すりを使うようになった
股関節の痛みや筋力低下があると、階段を上るときに片脚で体を支えることが難しくなります。
以前より手すりに頼る、痛い側から一段ずつ上る、といった変化がないか確認してみてください。
6.歩幅が狭くなった、歩き方を指摘された
股関節が十分に伸びなくなると、歩幅が狭くなることがあります。
痛みを避けるために体を左右へ揺らす、片側へ傾けるなど、本人が気づかないうちに歩き方が変わることもあります。
7.長く歩けない、夜間も痛むようになった
症状が進むと、長時間の立位や歩行がつらくなり、休憩が必要になることがあります。
安静時や夜間にも痛むようになった場合は、早めの評価をお勧めします。

簡単なセルフチェック
次の動作を、痛みが出ない範囲で左右それぞれ確認してください。
| 確認する動作 | 観察するポイント |
|---|---|
| 椅子に座って足首を反対側の膝へ乗せる | 左右差、鼠径部の痛み、脚の開きにくさ |
| 靴下を履く姿勢を取る | 体を大きく傾けないと届かないか |
| 椅子から立ち上がる | 最初の一歩で脚の付け根が痛まないか |
| 普段どおり歩く | 歩幅、体の傾き、左右差 |
痛みを我慢して、股関節を強く押したり、無理に開いたりする必要はありません。
セルフチェックは診断ではありません。左右差や痛みがある場合は、無理にストレッチを続けず、医療機関へ相談してください。

靴下が履きにくい原因は、股関節だけとは限りません
股関節の問題以外にも、腰や膝の痛み、筋肉の柔軟性低下、バランス能力の低下などによって、靴下や爪切りが難しくなる場合があります。
そのため、「靴下が履けないから変形性股関節症だ」と自己判断するのは適切ではありません。
脚の付け根が痛いのか、腰が痛いのか、膝を曲げにくいのかによって、必要な検査や治療は変わります。
病院ではどのような検査をしますか?
まず、いつから症状があるのか、どの動作で痛むのか、左右差があるのか、生活上で何に困っているのかを確認します。
診察では、股関節を曲げる、開く、回すといった動きや、歩き方、筋力、腰や膝からの影響を調べます。
レントゲンでは、関節の隙間、骨の形、臼蓋形成不全、変形の程度などを確認します。
レントゲンだけで原因が分からない場合や、関節唇、大腿骨頭、軟部組織などを詳しく確認する必要がある場合には、MRIを検討します。

治療は、困っている生活から逆算して考えます
治療の目的は、レントゲンの形だけを変えることではありません。
「靴下を自分で履きたい」
「また旅行先を歩きたい」
「孫と一緒に出かけたい」
「ゴルフを続けたい」
患者さんが何を取り戻したいかによって、必要な治療は変わります。
初期から中期の段階では、体重や活動量の調整、薬物療法、運動器リハビリテーションなどを行います。
リハビリでは、股関節を無理に伸ばすのではなく、痛みの原因や可動域に合わせて、筋力、動作、歩き方などを調整します。
保存療法で十分な改善が得られない場合には、注射治療や、適応を確認したうえでPRP療法などの再生医療を検討することがあります。
一方で、変形が進み、日常生活への影響が大きい場合には、手術が適切な選択肢になることもあります。
当院の考え方は、手術を否定することではありません。
必要な手術は適切に提案しながら、不必要な手術はできるだけ避ける。
そのために、患者さんへ複数の選択肢と、それぞれのメリット・限界をお伝えします。
もし自分の家族だったら、僕は早めに確認を勧めます
もし僕の家族が、「靴下が履きにくくなったけれど、まだ歩けるから大丈夫」と言っていたら、一度診察を受けるように勧めます。
早めに状態を知ることは、すぐに大きな治療を始めることと同じではありません。
今の状態を把握し、生活の中で何に注意すればよいのか、どの運動が適しているのかを知ることも、立派な治療の一つです。
これまで普通にできていたことが難しくなると、不安になりますよね。
その変化を年齢のせいだけにせず、まず原因を確かめてみてください。
僕たちは、患者さんが痛みのために人生の楽しみを諦めないよう、治療の選択から生活を取り戻すところまで伴走したいと考えています。

靴下や爪切りの動作で、股関節に違和感はありませんか?
小さな動作の変化は、股関節の状態を確認するきっかけになります。
痛みや左右差が続いている方は、一人で悩まずご相談ください。
よくある質問
靴下が履きにくいと、必ず変形性股関節症ですか?
必ずしもそうではありません。腰、膝、筋肉の柔軟性、バランス能力などが関係する場合もあります。痛む場所や可動域を確認して判断します。
痛みがなくても、股関節の動きが悪くなることはありますか?
動かしにくさや左右差を先に感じる場合があります。靴下、爪切り、車の乗り降りなどで以前との違いを感じたら、相談してください。
股関節が硬いので、強くストレッチしてもよいですか?
痛みの原因によっては、強いストレッチで症状が悪化する可能性があります。痛みを我慢して動かさず、状態に合った運動を選ぶことが大切です。
変形性股関節症と診断されたら、すぐに手術ですか?
すぐに手術とは限りません。進行度、症状、生活への影響、希望を踏まえて、リハビリ、薬、注射、再生医療、手術などを検討します。
この記事の監修
阿部整形外科クリニック 院長 阿部瑞洋
整形外科医・股関節専門医
患者さんを自分の家族のように考え、必要な手術は適切に提案しながら、不必要な手術を避け、保存療法・リハビリテーション・再生医療を含む選択肢を一緒に考える診療を大切にしています。
※本記事は一般的な医学情報を提供するものであり、個別の診断を行うものではありません。症状がある場合は医療機関で診察を受けてください。

