「以前、ステロイド治療を受けたことがあります。大腿骨頭壊死ではないか心配です」
股関節外来では、このようなご相談をいただくことがあります。
こんにちは。股関節を専門に診療している整形外科医の阿部です。
今回お話しするのは、特発性大腿骨頭壊死症です。
名前を聞くと、「骨が腐ってしまう病気なの?」と強い不安を感じる方もいらっしゃいます。
しかし「壊死」とは、細菌によって骨が腐るという意味ではありません。
大腿骨頭の一部が血流障害などによって虚血性壊死に陥る病気です。
そしてこの病気で特に知っておいてほしいことがあります。
初期には、レントゲンで明らかな変化が見えないことがある。
という点です。
そのため、症状や病歴から大腿骨頭壊死が疑われる場合には、レントゲンだけで終わらせず、MRIによる評価を検討することがあります。
この記事のポイント
- 大腿骨頭壊死は比較的若い年代にも起こります
- 初期には症状がない場合もあります
- 症状が出ると、脚の付け根の痛みや歩行痛を感じることがあります
- 早期はレントゲンで変化が見えないことがあります
- 疑われる場合にはMRIが重要な検査になります
- ステロイド全身投与歴や習慣的な多量飲酒は関連因子として知られています
- 治療は病期・壊死範囲・骨頭の圧潰の有無などで大きく変わります
特発性大腿骨頭壊死症とは?
股関節は、骨盤側の受け皿である臼蓋と、大腿骨の先端にある丸い「大腿骨頭」によってできています。
特発性大腿骨頭壊死症では、この大腿骨頭の一部が虚血性壊死に陥ります。
ここで大切なのは、「壊死が起こること」と「痛みが出ること」は、必ずしも同じタイミングではないということです。
壊死が存在していても症状がない場合があります。
一方、病変部に負荷が加わり、骨頭に圧潰などの構造変化が生じることで、股関節痛が現れることがあります。
そのため、
「痛くないから大丈夫」
「レントゲンが正常だから大丈夫」
と、それだけで完全に判断できる病気ではありません。
大腿骨頭壊死の初期にみられる症状
大腿骨頭壊死症には、これだけで診断できる特有の自覚症状があるわけではありません。
しかし、発症したときには次のような症状がみられることがあります。
1.脚の付け根・鼠径部が痛い
股関節そのものから痛みが出ている場合、代表的なのが脚の付け根、つまり鼠径部の痛みです。
患者さんによっては、お尻や太もも、膝周囲まで痛みを感じる場合もあります。
2.比較的急に股関節痛が出てきた
「昨日まではそれほど気にならなかったのに、急に歩くと痛くなった」
という経過で受診される方もいます。
もちろん、急な股関節痛の原因は大腿骨頭壊死だけではありません。
骨折、関節炎、筋肉や腱の障害など、多くの病気との鑑別が必要です。
3.歩くと痛い、体重をかけると痛い
立ったり歩いたりした際に、股関節の奥や脚の付け根に痛みを感じる場合があります。
症状が強くなると、痛い側をかばって歩く「跛行」がみられることもあります。
4.安静時や夜にも痛む
病状が進んだ場合には、歩行時だけでなく、安静時や夜間にも痛みを感じることがあります。
ただし夜間痛も大腿骨頭壊死だけにみられる症状ではありません。
症状だけで自己診断するのではなく、診察と画像評価が必要です。

どんな人に起こりやすいのでしょうか?
特発性大腿骨頭壊死症は、原因を一つに特定できる病気ではありません。
現在、関連因子としてよく知られているのが、
- ステロイド薬の全身投与歴
- 習慣的な多量飲酒
です。
ただし、ここは誤解してほしくありません。
ステロイドを使用した人が必ず大腿骨頭壊死になるわけではありません。
また、お酒を飲む人すべてが発症するわけでもありません。
ステロイド治療が必要な基礎疾患そのものなど、複数の要因が関係すると考えられています。
ですから、必要なステロイド治療を自己判断で中止することは絶対に避けてください。
大切なのは、治療歴や飲酒歴などを診察時に正確に医師へ伝えることです。
なぜレントゲンでは分からないことがあるのでしょうか?
レントゲンは、股関節診療において非常に重要な検査です。
骨頭の形、関節裂隙、圧潰の有無、変形性股関節症の程度などを確認できます。
しかし、大腿骨頭壊死の早期には、まだ骨頭の形に明らかな変化が出ていないことがあります。
そのため、
「レントゲンで異常なし=大腿骨頭壊死ではない」
とは言い切れません。
特に、
- 股関節痛が強い
- 症状が改善しない
- 歩行時痛が続いている
- ステロイド全身投与歴がある
- 習慣的な多量飲酒歴がある
- 診察上、大腿骨頭の病変が疑われる
といった場合には、MRIを検討します。
MRIでは何が分かるのでしょうか?
MRIは、大腿骨頭壊死の早期診断に非常に重要な画像検査です。
レントゲンで骨頭の形が保たれている段階でも、MRIでは骨の内部に特徴的な変化が確認できることがあります。
日本整形外科学会も、早期には単純X線で変化が見えないため、疑われる場合にはMRIを行うと説明しています。
2026年に発表された国際的なARCO診療ガイドライン策定のためのシステマティックレビューでも、MRIは大腿骨頭壊死の診断において高い診断精度を示しています。
ただし、
「股関節が痛い人は全員MRIを撮ればよい」
という意味ではありません。
問診・診察・レントゲンを行った上で、必要な患者さんにMRIを追加することが基本です。

こんなときはMRIを考えます
僕なら、次のような状況ではMRIによる詳しい評価を検討します。
レントゲンは正常でも、強い痛みが続く
数日で改善する軽い筋肉痛とは異なり、体重をかけると強く痛む状態が続いている場合です。
原因不明の股関節痛が続いている
レントゲンだけでは症状を十分に説明できない場合、MRIによって骨や軟部組織を詳しく評価します。
ステロイド全身投与歴などの関連因子がある
病歴と症状を合わせて、大腿骨頭壊死を疑う場合にはMRIの必要性を検討します。
比較的急な脚の付け根の痛みがある
特に歩行が難しくなっている場合には、大腿骨頭壊死だけでなく、骨折など他の疾患も含めて早めに評価します。

大腿骨頭壊死と診断されたら、すぐ人工股関節ですか?
いいえ。
大腿骨頭壊死と診断されたからといって、すべての患者さんがすぐ人工股関節になるわけではありません。
治療方針を決めるうえで重要なのは、
- 病変の大きさ
- 病変の位置
- 骨頭が圧潰しているか
- 現在の病期
- 症状の程度
- 年齢や活動性
などです。
骨頭がまだ圧潰していない段階では、病変の状態によって、股関節を温存する治療が検討される場合があります。
一方、骨頭の圧潰や関節変形が進行し、痛みと生活障害が強い場合には、人工股関節置換術が適切な治療になることがあります。
現在の国際的な診療ガイドラインでも、正確に病期を評価し、病変の状態に応じて治療を選択することが重要とされています。
PRPなどの再生医療を先に受ければよいのでしょうか?
当院ではPRP療法などの再生医療を行っていますので、患者さんから、
「大腿骨頭壊死にもPRPを打てばいいのですか?」
と聞かれることがあります。
僕の答えは、
「まず大腿骨頭壊死の病期と範囲を正しく評価することが先です」
です。
大腿骨頭壊死は、変形性股関節症と同じように「とりあえず関節内へPRPを注射する」という考え方をする病気ではありません。
壊死範囲や骨頭圧潰の有無によって、その後の治療戦略が変わります。
関節を温存できる時期を逃さないことが重要な場合もあります。
だからこそ、再生医療を受けるかどうかを考える前に、まず診断と病期評価を行う必要があります。
「難病」と聞いて不安になった方へ
特発性大腿骨頭壊死症は、国の指定難病の一つです。
「難病」と聞くと、
「もう治療法がないのでは?」
と不安になる患者さんもいます。
しかし、「指定難病」という言葉と、「治療する方法がない」という意味は同じではありません。
病期や病変の状態に応じて、経過観察、股関節温存手術、人工股関節などの治療を検討します。
重要なのは、病名だけで将来を悲観することではありません。
今どの段階なのかを正確に知ることです。
もし自分の家族が「レントゲンは正常」と言われても痛がっていたら
もし僕の家族が、
「レントゲンでは異常なしと言われた。でも脚の付け根がずっと痛い」
と言っていたら、僕は痛み止めだけを飲んで何か月も様子を見るようには勧めません。
まずもう一度、症状を聞きます。
どこが痛いのか。
いつから痛いのか。
急に始まったのか。
歩くと痛いのか。
ステロイド治療歴はないか。
飲酒習慣はどうか。
そして大腿骨頭壊死を含む、レントゲンだけでは判断できない病態が疑われるなら、MRIによる確認を考えます。
反対に、MRIが必要ない症状なら、むやみに検査を増やすこともしません。
検査をたくさんすることが良い医療なのではなく、必要な検査を、必要なタイミングで行うこと。
それが大切だと考えています。
「レントゲンは正常。でも股関節が痛い」という方へ
「脚の付け根の痛みが続いている」
「急に股関節が痛くなった」
「歩くと痛く、改善しない」
「ステロイド治療歴があり心配」
このような場合は、一度原因を整理してみてください。
当院では、問診・診察・レントゲン所見を確認し、必要な場合には連携医療機関でMRIなどの精密検査を行い、治療方針を検討します。
レントゲンだけで分からない股関節痛もあります。一人で不安を抱え込まず、ご相談ください。
電話:0422-30-8080
よくある質問
Q1.大腿骨頭壊死はレントゲンで分かりますか?
進行するとレントゲンでも骨頭の変化を確認できますが、早期には明らかな変化が見えないことがあります。症状や病歴から疑われる場合はMRIを検討します。
Q2.レントゲンで異常なしなら、大腿骨頭壊死ではありませんか?
早期の大腿骨頭壊死をレントゲンだけで完全に否定できない場合があります。症状が強い、改善しない、関連因子がある場合などは、診察の上でMRIが必要か判断します。
Q3.ステロイドを使ったことがあると、必ず大腿骨頭壊死になりますか?
いいえ。ステロイド全身投与歴は関連因子として知られていますが、使用したすべての方が発症するわけではありません。必要なステロイド薬を自己判断で中止しないでください。
Q4.お酒を飲むと大腿骨頭壊死になりますか?
習慣的な多量飲酒は関連因子として知られていますが、飲酒者全員が発症するわけではありません。飲酒量やほかの病歴も含めて評価します。
Q5.大腿骨頭壊死と診断されたら、すぐ人工股関節ですか?
必ずしもそうではありません。壊死範囲、位置、圧潰の有無、病期、年齢、症状などによって治療方針が異なります。関節温存治療を検討できる場合もあります。
Q6.大腿骨頭壊死にPRPは有効ですか?
大腿骨頭壊死では、まず壊死範囲や骨頭圧潰の有無などを評価し、病期に応じた治療戦略を考えることが優先されます。一般的な股関節内PRP注射を、大腿骨頭壊死の標準治療として一律に勧めることはできません。
この記事の監修
阿部整形外科クリニック
院長 阿部 瑞洋
整形外科医・股関節専門医
股関節の診断、保存療法、運動器リハビリテーション、再生医療などに取り組んでいます。「自分や家族ならどうするか」という視点を大切にし、必要な手術は適切に提案しながら、不必要な治療を避け、患者さんに合った治療選択を一緒に考えることを大切にしています。
※本記事は一般的な医学情報を提供するものであり、個別の診断・治療を行うものではありません。症状や検査の必要性、治療適応は患者さんごとに異なります。
参考資料
- 日本整形外科学会「特発性大腿骨頭壊死症」
- 厚生労働省「特発性大腿骨頭壊死症」
- Cheng EY, et al. Nontraumatic Osteonecrosis of the Femoral Head: An International Evidence-Based Clinical Practice Guideline. 2026.
- Parikh RR, et al. Diagnosis and Treatment of Nontraumatic Osteonecrosis of the Femoral Head: Systematic Review and Meta-Analyses. 2026.


