診察室で、このようなお話を伺うことがあります。
患者さんは皆さん、股関節をよくしたいと思って一生懸命です。
しかし、良かれと思って続けている運動や安静が、現在の股関節の状態に合っていないことがあります。
こんにちは。股関節を専門に診療している整形外科医の阿部です。
結論からお伝えすると、股関節が痛いときに避けたいのは、「痛みを我慢して動き続けること」と「怖くてまったく動かなくなること」の両方です。
すべての患者さんに共通する、一律の禁止動作があるわけではありません。
病名、股関節の形、炎症の程度、筋力、痛みを感じる動作によって、適切な運動量は異なります。

この記事の結論
- 痛みを我慢して運動量を増やさない
- 自己流で股関節を強く伸ばさない
- 痛みを誘発する深い姿勢を繰り返さない
- 痛み止めだけで原因を放置しない
- 完全な安静を長く続けない
- 運動は現在の状態に合わせて、少しずつ調整する
股関節が痛いときは、動くべき?休むべき?
強い痛みが出た直後や、歩くたびに症状が悪化する時期には、負担を一時的に減らす必要があります。
一方で、股関節が痛いからといって長期間まったく動かなくなると、股関節を支える筋力や全身の体力が低下し、以前より歩きにくくなる可能性があります。
大切なのは、安静か運動かの二択ではありません。
痛みを悪化させている負荷を減らしながら、維持できる活動を残すことです。
変形性股関節症の場合も、患者さんの状態に合わせた運動療法は、保存療法の重要な一部です。ただし、痛みを強く誘発する運動を無理に続ける必要はありません。
股関節が痛いとき「やってはいけないこと」7選
1.痛みを我慢して、歩数や運動量を増やす
「筋力を落としたくないから」と、痛みを我慢して長距離を歩いたり、ランニングや登山を続けたりする方がいます。
運動そのものが悪いのではありません。
問題なのは、歩くたびに痛みが強くなっているのに、同じ負荷を繰り返すことです。
歩行後に明らかに痛みが増える、跛行が強くなる、翌日も症状が悪化したままになる場合は、現在の運動量が多すぎる可能性があります。
一度に長く歩くのではなく、途中に休憩を入れる、移動手段を併用するなど、負荷を分散してください。
2.痛い方向へ、無理に開脚やストレッチをする
股関節が硬くなると、「伸ばせば元に戻る」と考え、痛みを我慢して開脚したり、膝を床へ押しつけたりしたくなります。
しかし、股関節の骨の形や関節唇の状態によっては、深く曲げる動作や強くひねる動作で痛みが増すことがあります。
痛みが出る角度を力で超えようとせず、まず何が動きを制限しているのかを確認することが大切です。
ストレッチは、強ければ強いほど効果が高いわけではありません。

3.深くしゃがむ姿勢や、低い位置からの立ち上がりを繰り返す
和式トイレ、低い椅子、床からの立ち上がり、深いスクワットなどでは、股関節を大きく曲げる必要があります。
これらの動作で脚の付け根に痛みや詰まり感が出る方は、無理に繰り返さないでください。
生活では、少し高めの椅子、洋式トイレ、ベッドなどを利用すると、股関節を深く曲げる回数を減らせます。
ただし、正座やあぐらをすべての患者さんが永久に禁止する必要があるわけではありません。症状を誘発する姿勢を長く続けないことがポイントです。

4.長時間、立ちっぱなし・歩きっぱなしになる
料理、買い物、仕事、旅行などでは、知らないうちに股関節へ負担が蓄積します。
痛みが強くなるまで休憩せず、その後まとめて休むよりも、症状が軽いうちに短い休憩を挟むほうが負荷を調整しやすくなります。
旅行や外出では、歩く予定を詰め込みすぎず、座れる場所や移動手段を事前に確認しておきましょう。
5.重い荷物を片側だけで持つ
重い買い物袋や仕事道具をいつも同じ側で持つと、体が傾き、片側の股関節へ負担が集中しやすくなります。
荷物を左右へ分ける、リュックやキャリーカートを使う、複数回に分けて運ぶなどの工夫が必要です。
立っているときに、いつも同じ脚へ体重を乗せる癖にも注意してください。

6.痛み止めだけでごまかし、原因を確認しない
痛み止めは、痛みを軽減し、日常生活やリハビリを行いやすくするために役立つことがあります。
ただし、薬で痛みが軽くなったからといって、股関節の原因が解決したとは限りません。
薬を飲まないと歩けない状態が続く、夜間にも痛む、歩ける距離が短くなる、靴下を履きにくくなる場合は、一度状態を評価する必要があります。
痛みの原因には、変形性股関節症だけでなく、臼蓋形成不全、関節唇の障害、大腿骨頭壊死、筋肉や腱の障害、腰からの関連痛などがあります。
7.痛いからといって、長期間まったく動かない
痛みがあると、「動くと悪化するのではないか」と不安になりますよね。
強い痛みがある時期に負担を減らすことは必要です。
しかし、長期間ほとんど歩かず、日常の活動まで中止すると、股関節を支える筋肉だけでなく、心肺機能やバランス能力も低下します。
その結果、痛みが落ち着いても、以前のように歩けなくなることがあります。
完全に休むのではなく、痛みを増やさない範囲で、できる動作を残すことが大切です。
「やってはいけない」より、負荷の調整方法を知りましょう
僕は、患者さんへ「あれもダメ、これもダメ」と禁止事項だけを並べたくありません。
大切なのは、患者さんが取り戻したい生活に合わせて、動作を調整することです。
まず1週間、次の3点を簡単に記録してみてください。
- どの動作で痛みが出たか
- どのくらい続けると痛くなったか
- 休むと、どのくらいで落ち着いたか
記録すると、「歩くこと自体が悪い」のではなく、「連続して30分歩くと痛む」「坂道の翌日に悪化する」など、調整すべき負荷が見つかることがあります。
運動をした日に多少の違和感があっても、必ずしも関節が傷んだとは限りません。
一方、痛みが運動のたびに増え続ける、歩き方が崩れる、翌日も強く残る場合は、量や方法を見直してください。
股関節に負担をかけにくい運動とは?
一般的には、水中運動、エアロバイク、患者さんの状態に合わせた筋力トレーニングなど、衝撃の少ない運動を検討します。
ただし、水中歩行や自転車も、股関節の曲がる角度や運動時間によっては痛みが出ることがあります。
「股関節に良い運動」という名前だけで選ぶのではなく、実際に行った後の症状を確認してください。
当院のリハビリテーションでは、股関節だけでなく、骨盤、膝、足首、体幹、歩き方まで評価し、患者さんごとに運動内容を調整します。

次の症状があるときは、運動より先に受診してください
- 転倒や事故の後から強く痛む
- 急に脚へ体重をかけられなくなった
- 安静にしていても強く痛む
- 夜間の痛みで眠れない
- 発熱、赤み、腫れを伴う
- 脚のしびれや力の入りにくさがある
- 短期間で急激に症状が悪化した
このような場合は、自己流のストレッチや筋力トレーニングを中止し、原因を確認してください。

リハビリで改善しない場合の治療選択肢
股関節痛の治療は、「運動を続けるか、手術をするか」の二択ではありません。
生活動作の調整、薬物療法、運動器リハビリテーション、注射治療、再生医療、手術など、複数の選択肢があります。
当院では、保存療法を行っても症状が続く方について、医学的な適応がある場合にはPRP療法などの再生医療も説明しています。
PRP療法は、患者さん自身の血液から作製した成分を患部へ注射する自由診療です。
すべての方に効果が得られるものではなく、傷んだ軟骨が元どおりになることや、将来の手術を必ず避けられることを保証する治療ではありません。
注射後の一時的な痛み、腫れ、内出血、感染などのリスクがあり、治療費は全額自己負担です。治療内容、費用、リスクについて十分な説明を受けたうえで検討する必要があります。
僕が、自分の家族だったらどうするか
もし僕の家族が、痛みを我慢して毎日歩き続けていたら、「努力を増やす前に、痛みの原因を確認しよう」と伝えます。
反対に、怖くて一日中動かなくなっていたら、「今できる動きを一緒に探そう」と伝えます。
治療の目的は、禁止事項を増やすことではありません。
また旅行に行く。
家族と買い物へ出かける。
仕事やゴルフを続ける。
その方が本当に取り戻したい生活へ近づくために、必要な負荷と避けるべき負荷を整理することです。
必要な手術は、適切な時期に検討する。
手術以外の選択肢がある方には、リハビリや再生医療を含めた方法を説明する。
それぞれのメリットだけでなく、限界もお伝えし、患者さんが納得できる選択を一緒に考えることが、僕たちの役割です。

動くべきか、休むべきか迷っていませんか?
股関節の状態によって、適切な運動量や避けたい動作は異なります。
「歩くと痛い」
「自己流の運動を続けてよいか分からない」
「手術以外の治療も知ってから判断したい」
そのような段階からご相談いただいて構いません。
電話:0422-30-8080
よくある質問
股関節が痛いときは、歩かないほうがよいですか?
強い痛みがある時期は負担を減らす必要がありますが、長期間まったく歩かないことが最善とは限りません。痛みの原因と程度を確認し、歩行時間、距離、休憩を調整します。
股関節が硬いときは、毎日ストレッチすべきですか?
状態によって異なります。痛みを我慢して強く伸ばすと症状が悪化する場合があります。痛みが出る方向へ無理に動かさず、原因に合った方法を選んでください。
正座やあぐらは絶対に禁止ですか?
すべての患者さんに永久に禁止される動作ではありません。ただし、脚の付け根の痛みや詰まり感が出る場合は、深く曲げる姿勢を長時間続けないようにしましょう。
痛み止めで楽になれば、受診しなくてもよいですか?
一時的に改善しても、歩ける距離が短くなる、夜間痛がある、可動域が狭くなる場合は診察を受けることをお勧めします。
リハビリで改善しない場合、PRP療法を受けられますか?
PRP療法が適するかどうかは、病名、進行度、症状、これまでの治療などによって異なります。すべての方に効果が期待できるわけではないため、診察と画像評価を行って判断します。
この記事の監修
阿部整形外科クリニック
院長 阿部 瑞洋
整形外科医・股関節専門医
股関節の保存療法、運動器リハビリテーション、再生医療に取り組んでいます。患者さんを自分の家族のように考え、必要な手術は適切に提案しながら、不必要な手術をできるだけ避ける診療を大切にしています。
※本記事は一般的な医学情報を提供するもので、個別の診断や治療効果を保証するものではありません。運動の適否や治療の適応は患者さんごとに異なります。

