こんにちは。股関節を専門に診療している整形外科医の阿部です。
最初に結論をお伝えします。
「股関節が痛いからPRP」「手術をしたくないからPRP」と、最初から治療方法を決めることは、僕はお勧めしていません。
PRP療法は、患者さん自身の血液から血小板を多く含む成分を作製し、患部へ注射する再生医療の一つです。
手術を必要としない治療であり、股関節痛に対する治療選択肢の一つになる可能性があります。
しかし、PRPは「誰にでも合う治療」ではありません。
大切なのは、まず正しく診断し、これまでの治療、画像所見、生活への影響、そして患者さん自身が何を取り戻したいのかを確認することです。

この記事の結論
- PRPを検討する前に、まず股関節痛の診断をつける
- 「画像が悪い=PRP」「手術が怖い=PRP」ではありません
- 保存療法をどこまで行ったかを確認する
- PRPで期待できることと限界の両方を理解する
- 手術の適応についても説明を受けたうえで選択する
- 最終的には「何ができるようになりたいか」から治療を考える
そもそも、股関節のPRP療法とは?
PRPとは「Platelet Rich Plasma」の略で、日本語では多血小板血漿と呼ばれます。
患者さん自身から採血した血液を処理し、血小板を多く含む成分を患部へ注入します。
血小板には、組織の修復過程に関係するさまざまな成長因子が含まれています。
当院では、診察や画像評価を行い、医学的に適応があると判断した場合にPRP療法を選択肢として説明しています。
「PRPが効くか」より先に確認したいことがあります
僕が診察室で最初に考えるのは、
「この患者さんにPRPをするか?」
ではありません。
「そもそも、この痛みの原因は何なのか?」
です。
股関節の周辺には、関節そのものだけでなく、筋肉、腱、滑液包、神経などがあります。
腰からの神経症状を「股関節痛」と感じていることもあります。
診断が違えば、当然、必要な治療も違います。
そのため、PRPを検討するときには、次の7項目を確認しています。
股関節PRPを考える前に確認したい7項目
1.股関節痛の「診断」がついていますか?
最も重要なのはここです。
「足の付け根が痛い」という症状だけで、PRPの適応を決めることはできません。
変形性股関節症なのか。
臼蓋形成不全があるのか。
関節唇や腱など別の組織が原因なのか。
あるいは腰から来る痛みなのか。
まず病歴、診察、画像検査などから原因を整理します。
診断を飛ばして、治療方法だけを決めない。
これは再生医療に限らず、整形外科診療の基本だと僕は考えています。
2.本当に「股関節そのもの」が痛みの原因ですか?
患者さんが「股関節」と表現する範囲はかなり広く、脚の付け根、股関節外側、お尻、太ももまで含まれることがあります。
変形性股関節症では、典型的には鼠径部、つまり脚の付け根に痛みを感じることがあります。
一方、外側の痛みでは腱や滑液包、後方の痛みでは腰や神経などを考える場合があります。
つまり、
「股関節の近くが痛い=股関節内へPRP」
とは限りません。
3.保存療法を十分に試しましたか?
変形性股関節症と診断されたからといって、最初からPRPを行う必要があるわけではありません。
まず検討する治療には、
- 活動量や生活動作の調整
- 薬物療法
- 患者さんに合わせた運動療法
- 運動器リハビリテーション
- 必要に応じた補助具の使用
などがあります。
特に運動療法では、股関節だけを見るのではなく、筋力、歩き方、骨盤、膝や足首まで含めて評価することが大切です。
保存療法で症状が十分コントロールできているのであれば、あえて自由診療であるPRPを急ぐ必要はありません。
反対に、適切な保存療法を続けても生活に支障が残る場合には、次の選択肢を検討する意味があります。
4.痛みのために「できなくなったこと」がありますか?
僕はレントゲンだけで治療を決めません。
同じような画像所見でも、患者さんによって困っていることは違います。
例えば、
- 以前は1時間歩けたのに、10分で休むようになった
- 旅行を断るようになった
- ゴルフをやめてしまった
- 靴下を履くことが難しくなった
- 仕事中に長く立てなくなった
- 孫と外出することが不安になった
こうした「生活への影響」は、治療を考える非常に重要な材料です。
僕たちが治したいのは、レントゲン写真そのものではありません。
患者さんの生活です。
5.レントゲンなどで現在の状態を確認しましたか?
PRPを考える際には、画像評価も重要です。
変形性股関節症では、レントゲンで関節裂隙、骨の形、骨硬化、骨棘などを確認します。
必要に応じてMRIなどを追加することもあります。
ただし、ここで注意してほしいのは、
「レントゲンが悪いほどPRPが必要」という単純な話ではないことです。
画像、症状、可動域、歩行能力、これまでの治療経過を合わせて考えます。
6.「PRPで何を取り戻したいか」が明確ですか?
これは、僕がとても大切にしている質問です。
「PRPで治したいです」
ではなく、
「痛みが減ったら、何ができるようになりたいですか?」
と伺います。
「秋に夫婦で京都へ行きたい」
「もう一度18ホール歩きたい」
「仕事をあと5年続けたい」
「孫とディズニーランドへ行きたい」
こうして目標が具体的になると、そのために必要な歩行能力や可動域、筋力も具体的になります。
PRPだけでなく、リハビリや生活調整を組み合わせる理由も明確になります。
7.手術という選択肢についても説明を受けましたか?
ここは非常に大切です。
「手術を避けたい」という患者さんに、手術の話をすることは、一見矛盾しているように感じるかもしれません。
しかし僕は、PRPを検討する患者さんほど、必要であれば手術についても説明を受けるべきだと思っています。
変形が進行し、保存療法で強い痛みやADL障害を十分に改善できない場合には、人工股関節置換術などの手術が適切な選択肢になる場合があります。
PRPにはPRPの役割があります。
手術には手術の役割があります。
どちらが「良い治療」なのではなく、その患者さんにどちらが適切なのか。
それを判断することが大切です。

PRPで期待できることと、期待しすぎてはいけないこと
股関節症に対するPRPでは、痛みや機能の改善を報告した臨床研究があります。
一方で、プラセボと比較して明確な差が認められなかった研究もあり、現在の医学的エビデンスは一様ではありません。
したがって、僕は患者さんに、PRPについて次のように説明しています。
期待すること
- 痛みの軽減を目指す
- 動きやすさや日常生活機能の改善を目指す
- 手術以外の治療選択肢になることがある
理解しておきたい限界
- 効果には個人差がある
- 効果を保証する治療ではない
- すり減った軟骨が元通りになる保証はない
- すべての患者さんに適応となるわけではない
- 将来の手術を必ず避けられる治療ではない
特に「PRPを受ければ軟骨が完全に再生する」「人工股関節を絶対に避けられる」という理解は適切ではありません。
再生医療だからこそ、良い面だけでなく限界も理解してから選択してください。

「私はPRPに向いていますか?」への僕の答え
診察をせずに、年齢やレントゲン写真一枚だけを見て、
「あなたはPRPが効きます」
と断言することはできません。
僕が確認したいのは、
- 診断
- 痛みの原因
- これまでの保存療法
- 生活への影響
- 画像所見
- 患者さんの生活目標
- 手術を含めた他の治療選択肢
です。
この7つを合わせて、PRPを選ぶ意味があるかを考えます。
PRP療法の費用・リスクについて
PRP療法は健康保険が適用されない自由診療であり、治療費は全額自己負担です。
患者さん自身の血液を利用する治療ですが、リスクがゼロという意味ではありません。
採血や注射に伴う痛み、出血や内出血、注射後の一時的な痛み、腫れ、赤みなどが起こることがあります。また、注射治療である以上、頻度は高くありませんが感染などにも注意が必要です。
発熱や感染症などがある場合には治療を行えないことがあります。
治療前には、メリットだけでなく、費用、期待できる効果、限界、リスクについて説明を受け、納得したうえで判断してください。
もし、自分の家族から「PRPを受けたい」と言われたら
もし僕の家族が、
「手術は怖いから、PRPを受けようと思う」
と言ったら、僕はすぐには賛成しません。
反対もしません。
まず、こう聞きます。
「本当に何が痛みの原因なの?」
「これまで、どんな治療をしてきたの?」
「痛みがなくなったら、何をしたいの?」
そして画像と診察を確認したうえで、PRPが意味のある選択なら説明します。
反対に、PRPよりリハビリの方が良いと思えば、そう伝えます。
手術の方が生活を取り戻せる可能性が高い状態なら、手術についても正直に説明します。
僕たちの目的は、PRPの件数を増やすことそのものではありません。
患者さんが、自分に合った治療を選び、もう一度やりたいことができるようになること。
そして治療が終わったら、最終的にはクリニックを卒業していただくことです。
そのための選択肢の一つとして、PRPがあります。

「PRPを受けるか」ではなく、「PRPが自分に合うか」を相談してください
「リハビリを続けても股関節が痛い」
「手術を勧められたけれど、ほかの方法も知りたい」
「再生医療に興味はあるけれど、自分に適応があるのか分からない」
その段階からご相談いただいて構いません。
股関節の状態を診察し、保存療法、リハビリ、PRP療法、必要な場合には手術まで含めて、治療選択肢を一緒に整理します。
電話:0422-30-8080
よくある質問
Q1.変形性股関節症なら、誰でもPRPを受けられますか?
いいえ。病期、痛みの原因、画像所見、これまでの治療、全身状態などを確認して判断します。変形性股関節症であっても、PRPが最適とは限りません。
Q2.PRPを受ければ、すり減った軟骨は元に戻りますか?
元の正常な軟骨へ戻ることを保証する治療ではありません。PRPでは、痛みや機能の改善を目指しますが、効果には個人差があります。
Q3.PRPを受ければ人工股関節の手術を避けられますか?
手術を必ず回避できるわけではありません。変形の程度や症状によっては、手術が適切な選択になることがあります。
Q4.まだ手術を勧められていなくても、PRPを相談できますか?
相談できます。ただし、まず保存療法やリハビリが適切かどうかを確認し、そのうえでPRPを検討する意味があるか判断します。
Q5.PRPの相談に行ったら、必ずPRPを受けることになりますか?
いいえ。診察の結果、リハビリや保存療法を継続した方がよい場合や、別の治療をお勧めする場合もあります。相談したからといってPRPを受ける必要はありません。
この記事の監修
阿部整形外科クリニック
院長 阿部 瑞洋
整形外科医・股関節専門医
股関節の診断、保存療法、運動器リハビリテーション、再生医療などに取り組んでいます。「自分や家族ならどうするか」という視点を大切にし、必要な手術は適切に提案しながら、手術以外の選択肢がある患者さんには複数の方法を提示し、一緒に治療方針を考える診療を行っています。
※本記事は一般的な医学情報を提供するものであり、個別の診断や治療効果を保証するものではありません。PRP療法の適応・効果・リスクは患者さんごとに異なります。
参考資料
- 日本整形外科学会「変形性股関節症」
- NICE「Osteoarthritis in over 16s: diagnosis and management」
- Topaloglu M, et al. Effect of platelet-rich plasma injections versus placebo on pain and quality of life in patients with hip osteoarthritis. 2024.
- Almutairi AN, et al. Efficacy and Safety of Platelet-Rich Plasma Intra-articular Injections in Hip Osteoarthritis: A Systematic Review of Randomized Clinical Trials. 2024.


