「どこまで手術以外の治療を続けてよいのでしょうか?」
こんにちは。股関節専門医の阿部です。
僕は、患者さんが「手術をしたくない」と思う気持ちは自然なことだと思っています。
ただし、治療のゴールを「手術をしないこと」だけにしてしまうのはおすすめしません。
本当のゴールは、痛みを減らし、自分が大切にしている生活をできるだけ取り戻すことだからです。

まず「なぜ手術をしたくないのか」を整理します
手術を避けたい理由は人によって違います。
- 入院が怖い
- 仕事を休めない
- 手術後の生活が不安
- まだ自分の関節を残したい
- 本当に今が手術のタイミングか納得できない
理由が分かれば、治療方針も考えやすくなります。
ステップ1.診断と現在地を確認する
同じ「股関節痛」でも、変形性股関節症、大腿骨頭壊死、臼蓋形成不全、腰からの神経痛、腱障害などでは治療が異なります。
まず診察と画像で、現在どこに問題があり、病気がどの段階なのかを整理します。
ステップ2.保存療法を見直す
変形性股関節症では、運動療法、リハビリ、生活動作の調整、薬物療法などが基本です。
「リハビリに行ったことがある」だけではなく、今の症状に合った内容になっているかを見直します。
ステップ3.PRPを考える場合
PRPは患者さん自身の血液から作製した製剤を関節内へ注射する自由診療です。
股関節症について複数の臨床研究があり、症状改善を報告した研究がありますが、結果は一様ではありません。
2024年のプラセボ対照試験では、PRPが生理食塩水より明確に優れていることを示せなかった報告もあります。
そのため、PRPについても「手術を避けるための確実な治療」と説明することはできません。
ステップ4.幹細胞培養上清液を考える場合
幹細胞培養上清液は、幹細胞そのものではなく、培養中に分泌されたさまざまな物質を含む上清液を利用します。
基礎研究・動物研究では、炎症や軟骨細胞などへの作用が研究されていますが、人の股関節での臨床エビデンスはまだ限定的です。
当院では適応を検討したうえで、股関節へ1回3mLを関節内注射する方針です。
ただし、これによって人工股関節を必ず回避できるとは言えません。

ステップ5.手術を考えた方がよいのはどんなとき?
人工股関節を考えるのは、レントゲンだけで「末期だから」という理由ではありません。
重要なのは、痛み、こわばり、機能低下などが生活の質へ大きく影響しているか、そして適切な非手術治療で十分な改善が得られているかです。
例えば、
- 短い距離でも歩くのがつらい
- 夜も痛くて眠れない
- 仕事や家事が大きく制限される
- 保存療法を行っても生活が取り戻せない
という状態では、手術を改めて検討する意味があります。
再生医療のために必要な手術を先延ばしにしない
これは僕が特に大切にしている部分です。
再生医療を行っているからこそ、何でも再生医療で治そうとしてはいけないと思っています。
痛みと機能障害が強く、適切な保存療法で改善せず、患者さん自身も十分説明を受けて手術を希望する状態なら、人工股関節は生活を取り戻すための重要な選択肢です。
必要な手術は適切に行う。不必要な手術は避ける。
PRPや幹細胞培養上清液は、その判断の間にある選択肢の一部です。
「何年手術を延ばせるか?」ではなく「何を取り戻せるか?」
再生医療について、
「これをやれば人工股関節を5年延ばせますか?」
と聞かれることがあります。
残念ながら、現在の股関節のエビデンスから、そのような年数を正確に約束することはできません。
だから僕は、別の質問をします。
「今、一番取り戻したいことは何ですか?」
旅行へ行くことなのか。
仕事を続けることなのか。
痛みなく眠ることなのか。
その目標に対して、どの治療が最も合理的かを考えます。

もし自分の家族だったら
僕の家族が「絶対に手術したくない」と言ったら、その気持ちはまず聞きます。
しかし、もし人工股関節がその人の生活を取り戻すために最も合理的なら、その理由を説明します。
まだ保存療法、PRP、培養上清液などを検討する余地があるなら、それぞれの期待できることと限界を説明します。
僕が守りたいのは治療法ではなく、その人のこれからの生活です。
手術を勧められたけれど迷っている方へ
「まだ手術以外の方法はある?」
「PRPと培養上清液は自分に意味がある?」
「今、手術を受けるべき?」
治療を決めてから受診する必要はありません。
現在の状態と生活目標から、一緒に治療の順番を整理しましょう。
電話:0422-30-8080
よくある質問
PRPをすれば人工股関節を避けられますか?
必ず避けられるとは言えません。PRPの股関節症に対する研究結果も一様ではありません。
培養上清液なら手術を避けられますか?
そのような効果を保証する臨床データはありません。人の股関節でのデータはまだ限定的です。
人工股関節を考えるタイミングは?
痛みや機能低下が生活の質へ大きく影響し、適切な非手術治療で十分改善しない場合に検討します。画像だけで決めるものではありません。
まずPRPと培養上清液のどちらを受けるべきですか?
一律の順番はありません。診断、病期、治療歴、生活目標、手術適応などを確認して個別に判断します。
この記事の監修
阿部整形外科クリニック
院長 阿部 瑞洋
※本記事は一般的な医学情報を提供するものであり、個別の治療効果や手術回避を保証するものではありません。
参考資料
- NICE. Osteoarthritis in over 16s: diagnosis and management.
- 厚生労働省「幹細胞培養上清液及びエクソソーム等を用いる医療について(周知)」
- Suteja RC, et al. Clin Orthop Surg. 2025.
- Topaloglu M, et al. Turk J Phys Med Rehabil. 2024.

