「臼蓋形成不全」と言われた40代・50代女性へ――すぐ手術なの?股関節専門医が治療の順番を解説

予防
「先生、レントゲンを撮ったら“臼蓋形成不全ですね”と言われました」「母も人工股関節の手術をしています。私も将来、同じようになるのでしょうか?」「まだ50歳なのですが、もう手術を考えた方がいいのでしょうか?」股関節外来では、40代・50代の女性から、このようなご相談をいただくことがあります。

今まで普通に生活していたのに、突然「生まれつき股関節の形が浅い」と説明されれば、不安になりますよね。

こんにちは。股関節を専門に診療している阿部整形外科クリニックの阿部です。

まず、一番お伝えしたいことがあります。

臼蓋形成不全と診断されたからといって、全員がすぐに手術を受けるわけではありません。

一方で、「まだ歩けるから大丈夫」と何年も状態を確認せずに過ごすことが、その方にとって最善とも限りません。

大切なのは、臼蓋形成不全という「病名」だけを見るのではなく、

  • 現在どの程度、関節に変化があるのか
  • どのくらい痛いのか
  • 日常生活で何に困っているのか
  • これから何を続けたいのか

を一緒に確認することです。

この記事の結論

  • 臼蓋形成不全=すぐ手術、ではありません
  • まず症状・レントゲン・可動域・生活への影響を確認します
  • 軽度であれば生活調整やリハビリなどの保存療法から考えます
  • 骨切り術は年齢だけではなく、関節軟骨や変形の程度などで適応を判断します
  • PRPは臼蓋の浅さそのものを治す治療ではありません
  • 変形が進み生活障害が大きければ、人工股関節が適切な場合もあります

そもそも「臼蓋形成不全」とは何でしょうか?

股関節は、骨盤側の受け皿と、大腿骨の丸い骨頭が組み合わさってできています。

この骨盤側の受け皿を「臼蓋(きゅうがい)」と呼びます。

臼蓋形成不全とは、簡単に言うと、大腿骨頭を覆う骨盤側の屋根が浅い状態です。

屋根のかぶりが十分でないと、体重を支える面積が相対的に小さくなり、一部に負担が集中しやすくなります。

ただし、臼蓋形成不全があるから必ず痛くなるわけでも、必ず変形性股関節症へ進行するわけでもありません。

若い頃には何の症状もなく、40代や50代になって初めて、

  • 脚の付け根が痛い
  • 立ち上がりで痛む
  • 長く歩くとつらい
  • 股関節が動かしにくい

といった症状が出る方もいます。

なぜ40代・50代になってから痛み始めるのでしょうか?

患者さんからよく、

「生まれつきなら、どうして今まで痛くなかったのですか?」

と聞かれます。

これはとても自然な疑問です。

股関節は毎日、立つ、歩く、階段を上るといった動作で繰り返し体重を受けています。

臼蓋が浅くても、若い頃には筋力や関節の状態によって問題なく生活できる場合があります。

しかし、長年の負担、筋力や活動量の変化、体重の変化などが重なり、関節軟骨や関節周囲へ負担が生じることで症状が現れることがあります。

だからこそ僕は、40代・50代で初めて症状が出た方に対して、

「今まで大丈夫だったのだから、この先も大丈夫」とも、「今痛くなったから、すぐ手術」とも決めつけません。

まず現在地を確認します。

こんな変化があったら、一度股関節の状態を確認してください

次のような変化が続いている場合は、単なる「年齢による体の硬さ」と決めつけず、一度股関節を評価することをお勧めします。

  • 靴下が履きにくくなった
  • 椅子から立ち上がると脚の付け根が痛む
  • 以前より長く歩けなくなった
  • 階段や坂道がつらい
  • あぐらや足を組む動作がしにくい
  • 旅行や外出を断るようになった

僕が特に大切にしているのは、痛みの強さだけではありません。

「何ができなくなったのか」です。

例えば、痛みが10段階で3でも、

「旅行に行くのが怖くなった」

「仕事で立ち続けられない」

「ゴルフをやめてしまった」

のであれば、生活への影響は決して小さくありません。

臼蓋形成不全と言われたら、まず何を調べますか?

診察では、臼蓋が浅いかどうかだけを見ているわけではありません。

まず確認するのは、痛みの場所、股関節の動く範囲、歩き方、左右差です。

レントゲンでは、

  • 大腿骨頭がどの程度覆われているか
  • 関節の隙間が保たれているか
  • 骨硬化や骨棘などの変形性股関節症の変化があるか

などを確認します。

症状とレントゲン所見が一致しない場合や、関節唇、骨、軟部組織などを詳しく確認する必要がある場合はMRIなどを検討することがあります。

ここで重要なのは、臼蓋形成不全の程度だけで治療法は決まらないということです。

「すぐ手術ですか?」――治療はこのように考えます

臼蓋形成不全の治療は、全員が同じ階段を1段ずつ上っていくわけではありません。

症状、年齢、軟骨の状態、変形の程度、生活への影響によって、途中の治療を飛ばしたり、早めに手術を検討したりする場合もあります。

1.まず生活の中で負担を調整する

痛みが出ている動作を一度整理します。

長距離歩行、階段、深くしゃがむ姿勢、長時間の立位など、どの負荷で症状が強くなるかを確認します。

だからといって、すべての運動を禁止するわけではありません。

痛みを悪化させる負荷を減らしながら、筋力や全身の体力を維持していくことが大切です。

2.リハビリテーション

臼蓋形成不全そのものの骨の形を、リハビリで変えることはできません。

しかし、股関節周囲筋、体幹、骨盤、膝や足首の使い方を整え、股関節への負担を調整することはできます。

当院では、単に「お尻の筋肉を鍛えましょう」と一律に運動を行うのではなく、歩き方や痛みが出る動作を確認し、その方に合った運動量を考えます。

強く痛む方向へ無理に股関節を伸ばしたり、自己流で開脚を繰り返したりする必要はありません。

3.薬や注射などの保存療法

痛みに対しては、状態に応じて内服薬や外用薬などを使用することがあります。

大切なのは、薬だけで痛みを隠して動き続けることではなく、薬を使いながら生活やリハビリを整えることです。

4.PRPなどの再生医療を検討する場合

保存療法を行っても症状が残る場合、状態によってはPRP療法などの再生医療を治療選択肢として説明することがあります。

ここで、とても大切なことがあります。

PRP療法は、浅い臼蓋を深くする治療ではありません。

つまり、臼蓋形成不全という骨格そのものを正常な形に戻す治療ではありません。

PRPは、変形性股関節症などに伴う痛みや機能について改善を目指す注射治療として検討することがあります。

一方で、股関節に対するPRPの臨床研究結果は一様ではなく、すべての患者さんに効果が得られる治療ではありません。

軟骨が正常な状態へ戻ることや、将来の手術を必ず避けられることを保証するものでもありません。

そのため、僕は「手術をしたくないからPRP」と単純には考えません。

診察、画像、これまでの治療、生活目標を確認したうえで、本当に検討する意味があるのかを一緒に考えます。

股関節のPRP再生医療について詳しく見る

5.自分の関節を残す「骨切り術」という選択肢

臼蓋形成不全では、股関節の変形があまり進んでおらず、関節軟骨が比較的保たれている場合、自分の股関節を残す目的で骨盤側の骨を動かし、大腿骨頭のかぶりを改善する骨切り術を検討することがあります。

「骨切り術は若い人だけ」と思われることがありますが、40代でも関節の状態などによって適応を検討される場合があります。

ただし、40代・50代では年齢だけでなく、軟骨の状態、関節裂隙、変形の程度、活動性などを慎重に評価する必要があります。

この治療が適切と考えられる場合には、股関節温存手術を専門とする医療機関へご紹介します。

6.変形が進んでいる場合の人工股関節

変形性股関節症が進行し、強い痛みが続き、歩行や日常生活への支障が大きい場合には、人工股関節置換術が適切な治療になることがあります。

必要な手術を避け続けることも、僕は良い医療だとは考えていません。

例えば、

  • 痛みで夜眠れない
  • 短い距離しか歩けない
  • 仕事や家事が維持できない
  • 保存療法を行っても生活障害が大きい

といった状況では、手術によって得られるメリットとリスクを具体的に検討すべき場合があります。

40代・50代だからこそ「何年もつか」だけでなく「今どう生きたいか」を考える

40代・50代の患者さんには、仕事、子育て、介護、旅行、趣味など、まだまだやりたいことがあります。

だから僕は、

「人工関節をできるだけ先延ばしにしましょう」

ということだけを治療目標にはしません。

大切なのは、

「この先10年、20年を、どう過ごしたいのか」

です。

手術を先延ばしにするために、大切な10年間を痛みで我慢してしまうのでは本末転倒です。

反対に、まだ保存療法で十分に生活できる方が、不安だけを理由に急いで手術を選択する必要もありません。

治療法ではなく、人生から逆算して考える。

それが僕の診療で大切にしていることです。

もし自分の家族が「臼蓋形成不全」と言われたら

もし僕の妻や家族が40代・50代で、

「臼蓋形成不全だから、このまま人工股関節になるのかな」

と不安になっていたら、僕はまずこう伝えます。

「病名だけで未来を決めなくていいよ。まず今の股関節をちゃんと見よう」

そして、

どのくらい変形しているのか。

どのくらい歩けるのか。

何に困っているのか。

何をできるようになりたいのか。

を一緒に整理します。

リハビリで十分なら、まずリハビリをします。

再生医療を検討する意味があれば、そのメリットと限界を説明します。

自分の関節を残す手術が適切なら、その専門医へ紹介します。

人工股関節が一番生活を取り戻せる方法なら、その選択肢も正直に勧めます。

必要な手術は適切に行う。不必要な手術はできるだけ避ける。

そして最終的には、また旅行へ行ったり、仕事や趣味を楽しんだりして、クリニックを卒業していただく。

それが僕たちの目指している治療です。

「臼蓋形成不全」と言われて、不安になっていませんか?

「すぐに手術になるのでしょうか?」

「リハビリでどこまで改善できますか?」

「再生医療は自分にも選択肢になりますか?」

「手術を勧められたけれど、本当に今がタイミングなのでしょうか?」

その段階からご相談いただいて構いません。

股関節の状態を診察し、保存療法、リハビリ、再生医療、必要な場合には手術まで含めて、治療の選択肢を一緒に整理します。

股関節専門外来をWEB予約する

治療について相談する

電話:0422-30-8080

よくある質問

Q1.臼蓋形成不全と診断されたら、将来必ず人工股関節になりますか?

必ず人工股関節になるわけではありません。将来どの程度変形性股関節症が進行するかは個人差があり、症状、関節の状態、生活への負荷などによって異なります。定期的に状態を確認しながら考えることが大切です。

Q2.40代でも骨切り術を受けることはありますか?

あります。ただし年齢だけで決める治療ではありません。関節軟骨や関節裂隙が比較的保たれているか、変形の程度、症状、活動性などを含めて専門的に適応を判断します。

Q3.50代なら人工股関節しか選択肢はありませんか?

いいえ。50代という年齢だけで人工股関節が決まるわけではありません。症状や変形の程度によって保存療法を続ける方もいます。一方、進行した変形性股関節症では人工股関節が適切な場合もあります。

Q4.臼蓋形成不全にPRPをすれば、骨の形は正常になりますか?

なりません。PRP療法は、臼蓋の浅さそのものを正常な形に変える治療ではありません。痛みや機能改善を目的として検討される場合がありますが、適応と限界を理解したうえで選択する必要があります。

Q5.痛みが軽くても受診した方がよいですか?

痛みが軽くても、歩ける距離が短くなった、靴下が履きにくい、旅行を避けるようになったなど、生活に変化がある場合は一度状態を確認する意味があります。

Q6.手術を勧められましたが、別の医師に相談してもよいですか?

もちろんです。手術は大きな決断ですので、現在の状態や他の選択肢について理解したうえで納得して決めることが大切です。セカンドオピニオンを利用することも選択肢の一つです。

この記事の監修

阿部整形外科クリニック
院長 阿部 瑞洋

整形外科医・股関節専門医

股関節の診断、保存療法、運動器リハビリテーション、再生医療などに取り組んでいます。「自分や家族ならどうするか」という視点を大切にし、必要な手術は適切に提案しながら、手術以外の選択肢がある患者さんには複数の方法を提示して、一緒に治療方針を考えることを大切にしています。

※本記事は一般的な医学情報を提供するものであり、個別の診断や治療効果を保証するものではありません。治療の適応は、症状、画像所見、年齢、関節の状態などによって異なります。

参考資料

  • 日本整形外科学会「臼蓋形成不全」
  • 日本整形外科学会「変形性股関節症」
  • O’Connor KP, et al. Hip Dysplasia Treated With Periacetabular Osteotomy in Patients Over 40 Years Old: A Systematic Review. 2024.
  • Topaloglu M, et al. Effect of platelet-rich plasma injections versus placebo on pain and quality of life in patients with hip osteoarthritis. 2024.
  • Almutairi AN, et al. Efficacy and Safety of Platelet-Rich Plasma Intra-articular Injections in Hip Osteoarthritis. 2024.

この記事を執筆した人

阿部 瑞洋 医師

  • 整形外科専門医
  • 股関節専門医

一般社団法人エンジョイワーク 阿部整形外科クリニック 院長。
股関節・膝関節の保存療法および再生医療に精通し、年間延べ3万人以上の患者様の診療実績を持つ。最新の医療と親身なカウンセリングで、地域医療に貢献している。

股関節の再生医療PRP療法|阿部整形外科クリニック

予防
シェアする
阿部整形外科クリニック 院長 阿部 瑞洋をフォローする
タイトルとURLをコピーしました