関節とは「骨と骨のつなぎ目部分」であり、人体には膝・股・肩・あご・肘・手・足などいくつもの関節が存在しています。これらの関節があることにより、私たちは「歩く」「しゃがむ」「物をつかむ」といった日常生活に必要不可欠な動作をスムーズに行えているのです。

(図)主な関節の位置


 一般的に加齢や怪我などの理由で関節に問題が起きたとき、痛み・腫れなどの軽症であれば薬・運動・装具といった「保存的治療」、関節の変形などがみられる重症例では「手術」という、どちらかの治療法から選択することになります。

 しかし、中には「保存療法を続けているが、痛みが取れない」「手術と言われたが、できれば避けたい」と思われる方も少なくありません。
 そういった方々におすすめしたいのが、保存療法と手術の中間となる治療法「PRP療法」です。

 PRP療法とは、患者さん本人の血液中の血小板を利用した「再生医療」のひとつです。
血液中から組織修復作用のある成長因子を含む血小板を抽出し、体の痛んだ部分に注入する方法です。注入したPRPは自然治癒力をサポートするため、痛みの軽減や早期治癒が期待できます。PRP療法はご自身の血液を使用するので重篤な副作用もみられず、患部の切開は不要で「注射だけ」で済むので、現在注目を集めている治療法です。

 これまで日本では、PRP療法は歯科・口腔外科などの骨形成・創傷治療として応用されていましたが、近年、変形性関節症や慢性腰痛への応用など整形外科分野にも広がっています。  
海外では以前よりスポーツ選手の筋肉・腱の治療に応用されており、田中将大選手(元ヤンキース)や大谷翔平選手(エンジェルス)が右肘のじん帯損傷治療としてトミージョン手術*1ではなくPRP療法を行ったことはニュースで報じられたので、ご存じの方もいらっしゃるでしょう。
*1トミージョン手術:野球肘(内側側副靭帯損傷)のじん帯再建手術。入院は1週間程度だが、その後の長期リハビリが必要であり、故障前と同レベルの状態に戻るには1年半程度かかる。

 当院でも自由診療にて「PRP療法」を行っております。
 問診やレントゲン検査など丁寧に事前検査を行い、PRP療法が適応になるかをしっかり診断してから治療を行います。組織修復の効果向上を図るため、当院では超音波(エコー)で患部を確認しながら、適切な場所に注入しています。
 保存治療で十分な効果がみられない方などPRP療法にご興味ある方は、当院までお気軽にご相談ください。

関節の再生医療とは?

 再生医療とは、病気や怪我によって臓器・組織機能が失われた際、失った機能を再生・回復させることを目指した医療技術です。現在日本ではトップクラスの基礎研究・臨床研究が進められており、京都大学の山中教授によるiPS細胞(人工多能性幹細胞)開発でのノーベル医学・生理学賞受賞(2012年)などは、記憶に新しいところです。
整形外科の分野では、変形性膝関節症や股関節症、肩関節症などQOLに影響の大きい膝・股・肩・腰の障害に対する新しい治療法としてPRP療法が注目を集めています。

再生医療の種類


 整形外科の分野における再生医療には、保険適用(一部疾患のみ)で、手術を必要とする「自家軟骨培養移植」と、保険適用外(全額自己負担)で手術を必要としない「PRP療法・APS療法・脂肪由来幹細胞移植」があります。
 また、再生医療は利用する材料によって、次のような3種類に分けられます。

① 血液

  • PRP
    血液中から組織修復作用のある成長因子を含む血小板を抽出して利用する。
    採血当日のみ利用可能。
  • PRP-FD
    PRPをさらに高濃度に凝縮してフリーズドライ加工(乾燥)したもの。半年程度保存可能で、使う際に生理食塩水を加えて戻す。
  • APS
    血小板からPRPと抗炎症作用のあるタンパク質を抽出した「自己タンパク溶液(APS)」を使用する。
    「次世代PRP療法」とも呼ばれているが、PRPよりも高額。

② 幹細胞

 本人の皮下脂肪から採取した「脂肪由来幹細胞」を利用する。
組織再生の要となる幹細胞を使用するので、炎症や関節軟骨の変性を抑えたり、傷んだ部位の再生を促進したり状態を維持することが期待できる。

③ 軟骨細胞

 関節鏡手術*2により軟骨を採取して、コラーゲンと一緒に軟骨細胞を培養してから戻す「自家軟骨培養移植」は、損傷すると自然に治らない組織である軟骨の欠損部分を補う画期的な治療法。ただし、保険適用となる疾患は外傷性軟骨欠損症・離断性骨軟骨炎に限り、変形性関節症は対象外。
 *2関節鏡手術:直径約5mmの細い棒状のCCDカメラ(関節鏡)を使った手術。これまで関節の手術には患部を大きく切って手術を行う必要があったが、関節鏡を使うことで最小限の切り口で済む。

変形性関節症に対するPRP療法

 「膝の痛み」でお困りではありませんか?

  • 立ち上がるとき・歩き始めなど動作を開始するときだけ痛くなる
  • 痛みで正座や階段の昇り降りが難しくなる
  • 何もしていなくても(安静時にも)痛みを感じる
  • 膝をまっすぐに伸ばしづらい

 これら「膝の痛み」を生じる原因のほとんどは、「変形性膝関節症」によるものです。
 日本関節病学会によると、日本の変形性膝関節症の推定患者数は、自覚症状を持つ患者さんでは約1,000万人であり、X線検査で診断される潜在的な患者さんでは約3,000万人と報告されています*3。変形性膝関節症の発症率は高齢ほど高い傾向となるため、超高齢化社会を迎えている現在、患者数は増加の一途と辿っています。
*3(参考)初級編★「変形性膝関節症」の基本|日本関節病学会
https://jsjd.info/archives/815

(図)変形性膝関節症の膝関節イメージ

 痛みや腫れがみられる軽症~中等症の変形性膝関節症では、ヒアルロン酸注射や内服薬・外用薬による「保存治療」が中心となります。しかし、これらの保存治療が効かない、効果が期待できないケースでは「手術」を検討することになります。
 とはいえ、痛みを取りたいが手術はしたくないので、今後の治療について迷われている方は意外と多いのです。そんな保存治療では効果が不十分な「変形性膝関節症」の方におすすめしたい治療法が、保存治療と手術の間に位置づけられる再生医療「PRP療法」です。

(図)変形性膝関節症に対するPRP療法の位置づけ

PRP療法とは?


 転んで血が出てしまったり指を切ったりしたとき、いつのまにか血が止まり(傷が塞がり)、その後カサブタとなって治った経験をお持ちかと思います。
 この傷を治す過程で重要な役割を担っているのが、血液中の「血小板」です。
 実は血小板には血を止める物質のほか、「傷を修復する作用」のある物質(成長因子)が含まれており、PRP療法はこの原理を利用しています。

 PRP療法は、血液中から血小板を多く含んだ「多血小板血漿(Platelet Rich Plasma:PRP)」を抽出して、傷ついた部分に注入する治療法です。
 PRPには組織修復作用のほか、抗炎症作用、関節軟骨の破壊を誘発する「サイトカイン」を軽減させる作用を持つ成長因子が含まれており、本来体が持つ修復しようとする力(自然治癒力)をサポートします。

(画像)血液中のPRP


 なお、PRP療法は2014年11月に定められた安全性の確保に関する法律(再生医療等の安全性確保等に関する法律)に基づいて、現在は厚生労働省より認可を受けた医療機関のみで受けることができる治療です。
 当院も法律に則り、提供計画書を作成して特定認定委員会の厳しい審査を経て、厚生労働省より許可を取得しております。

期待できる効果と副反応


 PRP療法では次のような効果が期待できます。

  • 痛みの軽減
  • 組織の修復
    動かしやすさ・日常生活動作の改善
  • 変形の進行抑制

 PRP療法はご自身の血液を利用するので、基本的に副反応は起きにくいですが、注射後は赤み・かゆみ・痛み・腫れなどが3~4日みられることがあります。
 しかし、これらの症状は自然に治るので心配ありません。もし、気になる点が続くようでしたら、お気軽にご相談ください。

PRP療法のメリット・デメリット

PRP療法のメリットには、次の点が挙げられます。

  • 入院が不要で、手術を行わない治療法
    患部を切らなくて良いので、治療後はこれまで通りの生活を続けることができます。
  • アレルギーや重篤な副作用・感染症のリスクが少ない
    ご自身の血液を使うので、手術に比べて安全性が高いです。
  • 注射による治療なので、治療痕が残りにくい
  • 何度でも受けることができる

 PRP療法のデメリットには、次の点が挙げられます。

  • 標準的治療ではなく、臨床データを積み上げている段階の治療
     再生医療の約60年の歴史の中で、血小板やPRPの研究・臨床応用については、比較的早くからなされていましたが、現在も引き続き多くの医療機関で有効性や安全性の検証を行っている最中です。
  • 治療効果には個人差がある
     PRP療法はご本人の血液を利用する治療法であり、血液内の血小板の量などには個人差があります。そのため、薬剤の様に単純に比較することはできません。
     しかし、これまで発表されている論文の多くは、PRP療法の効果を約60~70%と報告しており、重症度別では明らかな変形がみられる前の中期までの変形性膝関節症に有効とされています。
  • 今のところ、健康保険の承認がされていない
     全額自己負担の自由診療となります。

PRP療法をおすすめしたい方・受けられない方

PRP療法をおすすめしたい方

  • 保存療法(ヒアルロン酸注射など)をしているが、痛みが取れない
  • できるだけ手術までの時間を稼ぎたい(家庭や仕事の都合で今は休めないなど)
  • 手術の適応とされたが、手術はしたくない
  • 高齢者や合併症などによって、手術ができない
  • 今までにヒアルロン酸注射を受けたが、効果が十分ではない方
  • 人工関節にする程ではないが、定期的に注射を打っている方
  • 何か月も膝に水が溜まり、膝が曲げにくい方

PRP療法の適応疾患

 PRP療法は変形性膝関節症以外に、次のような疾患にも適応となります。

・変形性関節症(股関節・肩・手・足など)

 変形性関節症は、骨と骨の間にある関節軟骨が加齢(老化)や使い過ぎ・体重負荷・外傷によって少しずつ劣化(軟骨の摩耗)することで痛み・腫れ・動かしにくさを引き起こし、最終的に関節の変形を来す疾患です。
 変形性関節症は膝のほか、足の付け根(股関節)・肩・肘でみられます。重症化するとADL(日常生活動作)への影響が大きいため、通常の保存的治療で効果がみられないケースには選択肢の一つとしておすすめです。

(図)関節の構造


・スポーツ障害(じん帯損傷・肉離れ・腱炎)

 スポーツ障害はスポーツで関節・じん帯・腱・骨を使いすぎ(オーバーユース)てしまい、繰り返し負荷がかかることによって痛みなどの症状が慢性的に引き起こされる疾患です。野球肩・野球肘・テニス肘(上腕骨外側上顆炎:じょうわんこつがいそくじょうかえん)・オスグッド病・シンスプリントなどが有名です。
 様々な保存治療を行ったが痛みなどが改善しない難治性の外傷・障害の治療におすすめです。

・腰痛(腰椎椎間板ヘルニア・腰部脊柱管狭窄症・腰椎すべり症など)

 椎間板の一部が出て神経を圧迫する「腰椎椎間板ヘルニア」、長時間歩くと脚に痛みやしびれが現れる「腰部脊柱管狭窄症」、腰を後ろに反らすと痛みが現れる「腰椎すべり症」など腰痛が生じる疾患にもPRP療法はおすすめです。

・肩腱板断裂

  •  肩腱板断裂は腕を持ち上げる筋肉である腱板が加齢・外傷などによって傷ついてしまったり、筋肉の周囲が炎症したりすることで肩に痛みが現れます。PRP療法は痛んだ筋肉組織の修復や炎症の抑制に効果が期待できます。

PRP療法を受けられない方

  • 癌・リウマチ・自己免疫疾患で投薬治療を受けている方
  • 骨端線が残っているような中学高校生以下の方
  • 感染症にかかっている方
  • 発熱している方
  • 薬剤過敏症の既往歴がある方

 なお、上記以外にも医師が診察の上「不適当」と判断した場合には治療をお受けいただけないことがあります。

当院のPRP療法の特長

当院で行っているPRP療法には、次のような特長があります。

  • 自院でPRP作製するので、採血当日治療可能
     当院ではPRP作製を外部に委託せず、自院にて作製するので、採血当日に注入することが可能です。また、採血~注射まで時間がかからないので、複数回通院する必要もありません。
  • エコーを使って的確に患部に注入
     当院ではPRPを注射する際、エコー(超音波画像)を使って患部を確認しながら、正確な位置に注入するので、高い精度で治療が行えます。
  • 低価格なので、複数回の治療が受けやすい
     PRP療法は自由診療となるため、保険適用の治療に比べると高額です。
     当院では患者さんのご負担を少しでも減らせるように、一般的な相場(約10~15万円)と比べて、低価格に設定させていただいております。
     なお、当院では費用対効果の観点から、PRP療法につきまして「1クール2~3回(1か月間隔)」を推奨しております。もちろん効き目が十分みられれば、1回や2回でもOKです。

当院のPRP療法の流れ


 当院のPRP療法は、次のような流れで行います。

① 問診・レントゲン検査(+血液検査)

 関節の痛みが「どんなときに起こるのか?」「痛みの強さはどのくらいなのか?」など、詳しくお伺いします。また、患部のレントゲン検査を行い、関節の状態を丁寧に確認した上で、PRP療法が適応になるかを診断します。
感染症や持病の有無、内服している薬などにより「血液検査」を行うことがあります。

②採血

 PRPを作製するために約50ml採血します。

PRP作製

 当院は、院内でPRPを作製しています。
採血した血液を遠心分離器にかけて、PRPを抽出します。

(図)遠心分離器

④注射

 当院では院内でPRP作製ができるため、作製後すぐに注射器でPRPを注入できます。当院ではエコーで患部(関節)を確認しながら注入するので、適切な部位にPRPを届けることができます。また、注射後体調の変化がない場合にはそのままご帰宅いただけます。
 ※院内でPRPを作製できず、外部へ委託するクリニックの場合は、通常採血から注射まで約3週間かかります。

⑤定期観察

 経過観察のため、初回の注射から1~2週間後に状態をチェックさせていただきます。回数を重ねるごとに観察間隔を長くしていき、その後は1か月間隔で観察します。


よくあるご質問

1)PRP療法は痛いですか?

PRP療法は注射による治療なので、採血やヒアルロン酸注射と同じ程度の注射の痛みはあります。

2)PRP療法は注射後すぐに効果が出ますか?また、どのくらい効果は続きますか?

PRPに含まれる血小板の量や効果の感じ方には個人差がありますので、はっきりと断言することはできません。
 しかし、おおむね1回の治療で約2か月後から効果を感じられるようになり、6か月以上効果が持続するという研究報告があります。
 また、日本整形外科学会の研究発表(2015年)*4では、膝関節症患者6名にPRP療法を実施(1週間おきに計3回の投与)した結果、治療終了後1か月で6名中5名が痛みの半減を実感したと報告しています。

*4(参考)青戸克哉 他:日本人変形性膝関節症患者に対する多血小板血漿関節内注射治療の安全性と有効性.日整会誌 89:S734(2015)

3)PRP療法の治療前後に気を付けることはありますか?

なお、注射後については、次の点に注意してお過ごしください。
・ 注射当日は入浴・飲酒はお控えください(シャワー浴は可)。
・ 注射後3~4日程度は、注射部位の腫れ・かゆみ・赤み・痛みがみられる場合もあります。通常、数日で自然に消失していきますので、心配ありません。
・ 注射当日~約1週間はエクササイズ・ランニング・激しい運動・長時間の入浴など血流の良くなる活動を避けましょう。血流が良くなりすぎると痛みを感じることがあります。
・ PRP療法と並行してストレッチ・リハビリテーションを継続して行うとより効果的です。

院長からひと言

 私は現在も開業前に勤務していた病院に週1回勤務しております。
現在も手術を行っており、今までも関節外科医として人工関節置換術をした患者さんに『やってよかった!』とお言葉を頂くこともあります。

 その一方で、
 『まだ手術はしたくない!』
 『手術じゃないと治らないのでしょうか?』
 『手術は怖いです!』
といった患者さんの声もよく聞き、患者さんの多くが手術をするかどうかで悩み、不安を感じていらっしゃるのを実感しております。

 もちろん関節症が進行してPRP治療が難しい患者さんもいらっしゃるのですが、まだ進行が中程度の患者さんであればPRP治療が痛みの改善に非常に効果的であるとも思っております。

 特に膝関節に関しての再生医療は他関節に比較して注射も容易で、膝関節の痛みに対する悩みを大きく改善できる可能性を持っている治療です。「どのような治療か」「どんな効果があるか」「どんなメリットやデメリットがあるのか」「自分は受けられるのか」などの患者さんの疑問とお悩みをぜひ解決したいと思っております。

 PRP治療の最大のメリットは、自分の血液を使うという安全性、副作用の少ない治療であり、費用対効果・治療の有効性の高さです。つまり、安全・安心・安価な治療をご提供できるという事なのです。当院では1回あたりの治療を都内でもかなり低価格なレベルに設定しております。

 今後症例を重ねていくことで、再生医療・PRP療法は、さらに安全で治療効果が高く、より安価に患者さんへご提供できるようになると思われるので、これまで以上に日本中で普及していくことでしょう。 

 PRP治療をご希望される患者さんは、説明をよく聞き、治療に関してよくご理解いただいた上で治療を受けられる事をお勧めいたします。

 当クリニックはしっかり時間を掛けて診察、ご説明した上で、患者さんにもご納得いただき、治療を受けていただきたいと思っております。また治療後に関しても、定期的にフォロー致します。

 この治療法に関してご質問などございましたら、いつでもお気軽にご相談ください。

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