「転んだあとから股関節が痛いのですが、少し様子を見ても大丈夫でしょうか?」
診察室では、このようなご相談をいただくことがあります。
突然の股関節痛が起こると、多くの方が迷います。
「しばらく休めば治るのか。それとも、すぐ病院へ行った方がいいのか?」
こんにちは。股関節を専門に診療している阿部整形外科クリニック院長の阿部です。
結論からお伝えすると、急に股関節が痛くなった場合でも、筋肉や腱など比較的軽い問題で改善していくことはあります。
しかし一方で、骨折、大腿骨頭壊死、感染症など、早めに診断して治療方針を決めた方がよい病気が隠れていることもあります。
特に、「痛くて体重をかけられない」「突然歩けなくなった」という場合は、「年齢のせい」「少し使いすぎただけ」と自己判断しないことが大切です。
この記事の結論
- 転倒後に歩けない場合は、骨折をまず除外する
- 転んでいなくても、突然強く痛む病気がある
- 発熱を伴う急な股関節痛は早めの評価が必要
- レントゲンが正常でも、病気を否定できないことがある
- 「歩けないほど痛い」場合は、無理なストレッチや運動をしない

「突然の股関節痛」は、いつもの股関節痛とは分けて考えます
変形性股関節症では、一般的には立ち上がりや歩き始めに脚の付け根が痛むところから始まり、徐々に症状が強くなるケースが多くみられます。
しかし、昨日まで普通に歩いていた方が突然強い痛みを感じたり、短期間で歩行が難しくなったりした場合には、別の原因も考えなくてはいけません。
僕が診察で大切にしているのは、単に「股関節が痛い」という言葉だけではありません。
- いつから痛くなったのか
- 突然なのか、徐々になのか
- 転倒やけががあったのか
- 体重をかけられるのか
- どこが一番痛いのか
- 発熱や全身症状があるのか
- これまで使ってきた薬や治療歴
こうした情報を一つずつ整理することで、緊急性の高い病気が隠れていないかを判断していきます。
すぐ受診したい「7つのサイン」
1.転倒・転落のあと、立てない・歩けない
まず注意したいのが骨折です。
特に高齢の方では、家の中で軽く転んだ程度でも、大腿骨頸部など股関節に近い場所を骨折することがあります。
典型的には、脚の付け根に強い痛みがあり、立ったり歩いたりすることが困難になります。
骨粗鬆症がある方では、比較的小さな外力でも骨折する可能性があります。
転倒後に股関節が痛くて体重をかけられない場合は、「打撲だろう」と無理に歩かず、早めに整形外科を受診してください。
交通事故や高所からの転落など大きな外傷で、強い痛み、明らかな変形、動けない状態などがある場合は、救急要請を含めた対応が必要になることがあります。
2.転んでいないのに、突然体重をかけられなくなった
「何もしていないのに、急に痛くなった」
これも重要な情報です。
急な痛みというと捻挫や筋肉痛を想像するかもしれませんが、股関節では外傷がなくても強い痛みを生じる病気があります。
その代表の一つが、特発性大腿骨頭壊死症です。
大腿骨頭壊死症では、大腿骨頭への血流障害によって骨の一部が壊死し、比較的急に股関節痛や跛行が現れることがあります。
つまり、「転んでいないから骨には問題ない」とは言い切れません。
3.股関節の痛みに「発熱」を伴っている
急な股関節痛に発熱を伴う場合には、関節やその周囲の感染症も考える必要があります。
感染性関節炎では、短期間のうちに強い関節痛、可動域の低下、腫れ、熱感、発熱などを認めることがあります。
すべての患者さんに典型的な症状がそろうわけではありません。
しかし、
- 股関節が急に強く痛む
- 熱がある
- 体調そのものが悪い
- ほとんど動かせない
といった症状が重なる場合は、自己流のストレッチやマッサージで様子を見るのではなく、早めに医療機関へ相談してください。
4.安静にしていても強く痛い・夜も眠れない
変形性股関節症が進行した場合にも、安静時痛や夜間痛がみられることがあります。
ただし、これまでなかった夜間痛が急に出現した、数日のうちに強くなっている、といった場合には、「いつもの股関節痛」と決めつけない方がよいでしょう。
僕が知りたいのは、痛みの点数だけではありません。
「眠れているか」
「寝返りで目が覚めるか」
「じっとしていても痛いか」
という生活上の変化も大切な診断材料になります。
5.ステロイド治療歴などがあり、急に股関節が痛くなった
特発性大腿骨頭壊死症は、ステロイド薬の使用や多量の飲酒との関連が知られています。
もちろん、ステロイドを使用したすべての方や、お酒を飲むすべての方に発症するわけではありません。
しかし、このような背景がある方に比較的急な股関節痛が生じた場合は、診察時に必ず医師へ伝えてください。
特に注意したいのは、大腿骨頭壊死症の初期には、レントゲンだけでは変化が見えないことがある点です。
病歴や診察から疑われる場合には、MRIで詳しく確認することがあります。
6.「股関節痛」に加えて、脚のしびれ・脱力がある
患者さん自身は股関節が痛いと感じていても、痛みの原因が必ずしも股関節そのものとは限りません。
腰から出る神経の障害などによって、お尻や太もも、脚へ痛みが広がることもあります。
特に、
- 脚に力が入りにくい
- 急にしびれが強くなった
- 歩き方が明らかに変わった
などを伴う場合には、股関節だけでなく神経の評価も必要です。
排尿・排便の異常を伴うような神経症状がある場合は、緊急性の高い脊椎疾患が隠れている可能性もあるため、速やかに医療機関へ相談してください。
7.「レントゲンでは異常なし」と言われても、強い痛みが続く
これは、僕が特にお伝えしたいポイントです。
レントゲンは非常に重要な検査ですが、すべての病気がレントゲンだけで分かるわけではありません。
例えば、大腿骨頭壊死症では、早期にはレントゲンで変化が見えない場合があります。
また、関節唇や腱などの軟部組織は、レントゲンだけでは十分に評価できません。
ですから、
- 強い痛みが続いている
- 体重をかけにくい
- 歩行が改善しない
- 症状がむしろ悪化している
という場合には、「レントゲンが正常だったから大丈夫」と我慢し続けず、再評価することをお勧めします。

「急に痛い=変形性股関節症」とは限りません
股関節痛の原因は一つではありません。
| 状況 | 考える主な原因の例 |
|---|---|
| 転倒後、歩けない | 大腿骨頸部骨折など |
| 外傷なく急に痛む | 大腿骨頭壊死症、関節内病変など |
| 発熱を伴う | 感染性関節炎など |
| 徐々に歩き始めが痛くなる | 変形性股関節症など |
| しびれ・脱力を伴う | 腰椎・神経由来の痛みなど |
この表だけで自己診断することはできません。
大切なのは、症状の経過と診察、必要な画像検査を組み合わせて判断することです。
診察では何を確認するのでしょうか?
当院では、まず「どの画像を撮るか」から始めるのではなく、患者さんのお話と診察を大切にします。
具体的には、
- 痛みの発症時期ときっかけ
- 鼠径部・外側・臀部など痛む場所
- 体重をかけられるか
- 股関節の可動域
- 歩行状態
- 腰や膝、神経症状の有無
- けが、ステロイド使用、既往歴など
を確認します。
そのうえで必要に応じてレントゲンを行い、レントゲンだけでは判断できない病態が疑われれば、MRIなどの追加検査を検討します。
痛くて歩けないとき、自宅でやってほしくないこと
原因が分からない強い股関節痛に対して、いきなり次のことをするのは避けてください。
- 痛みを我慢して歩いて確かめる
- 無理に開脚する
- 強く股関節をひねる
- 自己流の筋力トレーニングを始める
- 強いマッサージを繰り返す
特に「体重をかけられないほど痛い」場合は、原因が分かるまで無理に運動する必要はありません。
一方で、骨折など緊急性の高い病態が否定され、変形性股関節症など慢性的な問題と診断された後まで、長期間まったく動かない方がよいという意味でもありません。
診断がついた後は、病態に合わせてリハビリテーションや活動量を調整します。
診断がついてから、治療の選択肢を考えます
僕は、患者さんが股関節痛で受診したからといって、最初から「手術」「再生医療」と治療法を決めるべきではないと考えています。
まず診断です。
そのうえで、
- 生活動作の調整
- 薬物療法
- 運動器リハビリテーション
- 注射治療
- 適応がある場合のPRP療法などの再生医療
- 手術治療
という選択肢から、その患者さんに合った方法を考えます。
骨折などで手術が必要な場合には、適切な医療機関と連携して手術を行うことが大切です。
一方、手術以外の選択肢が残っている方には、リハビリテーションや保存療法、適応を確認したうえで再生医療などについて説明することもあります。
必要な手術は適切に行う。不必要な手術はできるだけ避ける。
その判断のスタート地点が、正しい診断だと僕は考えています。

もし自分の家族が突然「歩けない」と言ったら
もし僕の家族から、
「急に股関節が痛くなって、歩けなくなった」
と言われたら、僕は「少し様子を見よう」とだけは言いません。
まず、何が起きているのかを確認します。
骨折ではないか。
大腿骨頭に問題がないか。
感染症ではないか。
腰や神経から来ている痛みではないか。
そして、危険な病気が除外できたところで、初めて「どう治すか」を一緒に考えます。
僕たちの目的は、患者さんを必要以上に怖がらせることではありません。
反対に、「大丈夫でしょう」と根拠なく安心させることでもありません。
今何が起きているのかを正しく知り、その人に必要な治療だけを選ぶこと。
それが、僕が自分の家族にも受けてもらいたい医療です。
突然の股関節痛を「年齢のせい」で片付けないでください
「突然、脚の付け根が痛くなった」
「歩くと強く痛む」
「レントゲンでは異常なしと言われたけれど、まだ痛い」
このような症状がある方は、まず原因を確認しましょう。
当院では、股関節の診察・画像所見・歩行状態などを確認し、必要に応じてリハビリ、保存療法、再生医療、手術を含めた治療選択肢を整理します。
電話:0422-30-8080
※交通事故や転落などの大きな外傷、著しい変形、意識状態の異常など緊急性が高いと考えられる場合は、通常外来ではなく救急医療機関への受診・救急要請を検討してください。
よくある質問
Q1.突然、股関節が痛くなりました。何日くらい様子を見てよいですか?
痛みの程度や原因によって異なるため、一律に「何日」とは決められません。体重をかけられない、急激に悪化した、転倒後、発熱を伴うなどの場合は早めの受診をお勧めします。
Q2.転んでいないのに、股関節の骨に問題が起こることがありますか?
あります。例えば特発性大腿骨頭壊死症は、外傷がなくても比較的急に股関節痛が現れることがあります。
Q3.レントゲンで異常なしなら安心ですか?
レントゲンは重要な検査ですが、すべての股関節疾患を否定できるわけではありません。大腿骨頭壊死症など、初期にはレントゲンで変化が見えにくい病気もあります。症状が強い、または改善しない場合は再評価が必要です。
Q4.痛くて歩けないときはストレッチした方がよいですか?
原因不明の強い痛みがある段階で、痛みを我慢したストレッチを行うことはお勧めしません。まず原因を確認し、病態に合った運動を選ぶことが重要です。
Q5.急な股関節痛でもPRP療法を受けられますか?
急な股関節痛に対して、診断をせずにPRP療法を行うべきではありません。骨折、感染症、大腿骨頭壊死症などを含めて原因を確認し、そのうえでPRP療法の適応があるかを判断します。
この記事の監修
阿部整形外科クリニック
院長 阿部 瑞洋
整形外科医・股関節専門医
股関節の診断、保存療法、運動器リハビリテーション、再生医療などに取り組んでいます。患者さんを自分の家族のように考え、必要な手術は適切に提案しながら、手術以外の選択肢がある方には複数の方法を提示し、一緒に治療方針を考えることを大切にしています。
※本記事は一般的な医学情報を提供するものであり、個別の診断・治療を行うものではありません。症状の程度や緊急性は患者さんごとに異なります。
参考資料
- 日本整形外科学会「大腿骨頸部骨折」
- 日本整形外科学会「特発性大腿骨頭壊死症」
- 日本整形外科学会「変形性股関節症」
- 日本整形外科学会「骨粗鬆症」


