人工股関節を勧められたら何を確認する?手術を決める前の「5つの質問」を股関節専門医が解説

原因、症状

「先生から、“そろそろ人工股関節を考えた方がいいですね”と言われました」

「手術をすれば楽になると聞きました。でも、やっぱり怖くて決断できません」

「まだ仕事も旅行もしたい。できれば手術以外の方法も知ってから決めたいんです」

股関節外来では、このようなご相談をよくいただきます。

こんにちは。股関節を専門に診療している整形外科医の阿部です。

人工股関節を勧められたとき、多くの患者さんが悩みます。

「本当に、今が手術のタイミングなのだろうか?」

僕が最初にお伝えしたいのは、人工股関節を勧められたからといって、その場ですぐ手術を決断しなければいけないわけではない、ということです。

ただし反対に、手術が必要な状態なのに、怖さだけを理由に何年も先延ばしにすることが、その方にとって最善とも限りません。

必要な手術は、適切な時期に行う。まだ手術以外の選択肢があるなら、それも十分に検討する。

そのために、僕なら手術を決める前に、次の「5つの質問」を整理します。

この記事のポイント

  • レントゲンだけで手術の時期を決めるわけではありません
  • 痛みだけでなく「何ができなくなったか」が重要です
  • 適切な保存療法をどこまで行ったか確認します
  • 手術する場合と、待つ場合の両方を比較します
  • PRPは人工股関節の代わりになるとは限りません
  • 納得できなければ、セカンドオピニオンも選択肢です

そもそも、人工股関節はどんなときに考えるのでしょうか?

変形性股関節症と診断されたからといって、最初から人工股関節になるわけではありません。

症状が比較的軽い段階では、生活動作の調整、薬物療法、運動療法、リハビリテーションなどの保存療法を行います。

それでも痛みや機能障害が十分に改善せず、日常生活への影響が大きくなった場合に、人工股関節置換術を検討します。

人工股関節は、傷んだ股関節を人工の関節に置き換え、痛みの軽減や機能の改善を目指す治療です。

僕は人工股関節を「できるだけ避けるべき治療」とは考えていません。

必要な患者さんにとっては、生活を取り戻すための非常に重要な治療です。

ただ、大きな手術だからこそ「なぜ今なのか」を患者さん自身が理解し、納得して決断することが大切です。

手術を決める前に確認したい5つの質問

質問1.この痛みは、本当に股関節が原因ですか?

最初に確認したいのは、非常に基本的なことです。

「今困っている痛みは、本当に股関節そのものから来ているのか?」

変形性股関節症がレントゲンで確認できても、患者さんの痛みのすべてが股関節由来とは限りません。

腰椎疾患、神経の障害、股関節外側の腱障害などが同時に存在することがあります。

例えば、脚の付け根が主に痛むのか。外側やお尻が痛いのか。しびれを伴うのか。腰痛もあるのか。

こうした情報によって、痛みの発生源を整理します。

人工股関節は、股関節から生じている痛みには有効な治療ですが、腰や神経から来ている症状まで、すべて改善する治療ではありません。

まず正しい診断。それから治療です。

股関節・足の付け根が痛む原因について詳しく見る

質問2.痛みのために「何ができなくなっていますか?」

僕は診察で、痛みを10点満点で聞くだけではありません。

むしろ、

「その痛みのせいで、何を諦めていますか?」

と聞くことを大切にしています。

10分以上歩けない。夜に痛みで目が覚める。靴下が履けない。仕事がつらい。旅行を断るようになった。ゴルフをやめた。

こうした生活の変化は、手術を考えるうえで非常に重要です。

レントゲン上の変形が強くても、生活への支障が比較的小さい患者さんもいます。

反対に、画像上は中等度でも、生活が大きく制限されている患者さんもいます。

僕たちが治療したいのは、レントゲン写真ではなく、その患者さんの生活です。

質問3.手術以外の治療を、どこまで行いましたか?

変形性股関節症では、一般的にまず保存療法を検討します。

  • 日常生活や活動量の調整
  • 薬物療法
  • 運動器リハビリテーション
  • 筋力や歩き方の改善
  • 必要に応じた杖などの補助具

ここで大切なのは、「リハビリに通ったことがあるか」だけではありません。

その患者さんの股関節の状態に合った保存療法を、適切に行ったかです。

反対に、十分な保存療法を行っても痛みと生活障害が強く残っているのであれば、同じ治療を何年も繰り返せばよいとも限りません。

手術の適応があり、保存療法で十分改善せず、患者さん自身も手術を希望している場合には、「もう少し保存療法を試す」ことだけを目的に手術を遅らせるメリットが乏しいケースもあります。

質問4.「今手術する場合」と「待つ場合」の両方を聞きましたか?

手術のメリットとリスクを説明してもらうことはもちろん重要です。

同じくらい聞いてほしいのが、

「今、手術をしなかった場合はどうなる可能性がありますか?」

という質問です。

例えば、今の状態で半年や1年保存療法を続けることが現実的なのか。変形がさらに進行した場合に何が変わるのか。筋力や歩行能力はどうなる可能性があるのか。

人工股関節手術には、感染、脱臼、血栓症、骨折、神経障害、再手術などのリスクがあります。

しかし一方で、手術を必要以上に先延ばしにすることによって、長期間の痛みや活動量低下を抱える可能性もあります。

「手術するリスク」と「手術しないリスク」の両方を比較してください。

質問5.治療で「何を取り戻したい」ですか?

最後は、患者さん自身への質問です。

「痛みが減ったら、何ができるようになりたいですか?」

人工股関節を入れること自体がゴールではありません。

PRPを受けることも、リハビリに通うこともゴールではありません。

「夫婦でまた旅行に行きたい」

「仕事をあと5年間続けたい」

「孫と一日外出したい」

「もう一度ゴルフをしたい」

そうした人生の目標があって、そのための手段として治療があります。

治療方法から考えるのではなく、自分が取り戻したい人生から治療を逆算する。

これが僕の大切にしている考え方です。

「できれば手術をしたくない」――PRPは選択肢になりますか?

人工股関節を勧められた患者さんから、よく聞かれる質問です。

答えは、

「状態によっては検討できます。ただし、人工股関節の代わりになる治療とは限りません」

です。

PRP療法は、ご自身の血液から作製した成分を股関節へ注射する自由診療です。

股関節症に対するPRPについては、痛みや機能改善を報告する研究がある一方で、プラセボとの差が確認できなかった研究もあり、現時点で研究結果は一様ではありません。

また、PRPによって高度に傷んだ関節軟骨が元の正常な状態へ戻ることや、人工股関節手術を必ず避けられることを保証するものではありません。

だからこそ、

「手術が怖いからPRP」

とは単純に決めません。

病期、痛みの原因、画像所見、保存療法の経過、生活への影響、そして手術適応を確認して、PRPを検討する医学的な意味があるか判断します。

当院のPRP再生医療について詳しく見る

「私はPRPに向いていますか?」股関節再生医療を考える前の7項目

手術を勧められたら、セカンドオピニオンを受けてもよいですか?

もちろんです。

人工股関節は大きな意思決定です。

「なぜ今なのか、まだ理解できていない」

「ほかの方法を確認してから決めたい」

「自分の希望をもう一度整理したい」

その場合には、別の医師の意見を聞くことも選択肢です。

ただし、セカンドオピニオンとは、

「自分が聞きたい答えを言ってくれる医師を探すこと」ではありません。

手術を勧める理由、まだ保存療法を続けられる理由、それぞれを理解し、自分が納得して治療を選ぶためのものです。

人工股関節を考えるときの基本的な流れ

僕なら、次の順番で整理します。

  1. 本当に股関節が痛みの原因か確認する
  2. 診察と画像で現在の状態を確認する
  3. 生活への影響を具体的に整理する
  4. これまでの保存療法を振り返る
  5. 手術をする場合と待つ場合を比較する
  6. 必要なら再生医療やセカンドオピニオンも検討する
  7. 患者さん本人が納得して治療を選択する

もし、自分の家族が人工股関節を勧められたら

もし僕の家族が、

「人工股関節を勧められたけれど、どうしたらいい?」

と相談してきたら、僕はすぐに、

「手術をやめた方がいい」

とも、

「すぐ手術した方がいい」

とも言いません。

まず画像を見ます。

診察をします。

どのくらい歩けるのかを聞きます。

夜、眠れているのかを聞きます。

これまで何を試したのか確認します。

そして最後に、こう聞きます。

「本当は、何ができるようになりたいの?」

もし人工股関節が、その人の生活を取り戻すために最も合理的な選択なら、僕は手術を勧めます。

まだリハビリや保存療法で改善できる余地があるなら、それを提案します。

PRPを検討する医学的な意味があるなら、期待できることと限界を説明します。

必要な手術は適切に行う。不必要な手術はできるだけ避ける。

そして、患者さん自身が納得して決断できるように伴走する。

それが僕の考える股関節診療です。

「人工股関節を勧められた。でも、まだ決めきれない」という方へ

「本当に今、人工股関節が必要なの?」

「手術以外の選択肢はまだ残っている?」

「自分はPRPの対象になる?」

「もう少し待っても大丈夫?」

このような段階からご相談いただいて構いません。

当院では、手術を否定するための診察ではなく、現在の股関節の状態を確認し、保存療法・リハビリ・再生医療・手術それぞれの役割を整理します。

「何をするか」ではなく、「自分に何が必要なのか」を一緒に考えましょう。

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電話:0422-30-8080

よくある質問

人工股関節を勧められたら、必ず手術を受けるべきですか?

その場ですぐ決める必要はありません。症状、画像、生活への影響、保存療法への反応、全身状態などを確認して判断します。一方、手術が適切な状態で生活障害が強い場合には、必要以上に先延ばしにしないことも重要です。

レントゲンで「末期」と言われたら、人工股関節しかありませんか?

画像所見だけでは決まりません。ただし高度な変形があり、痛みや生活障害が強く、適切な保存療法で十分な改善が得られない場合には、人工股関節が合理的な選択となることがあります。

人工股関節はどのくらい先延ばしできますか?

一律に「何年」と決めることはできません。症状、変形の程度、歩行能力、筋力、生活への影響などによって異なります。今手術する場合と待つ場合について、主治医と具体的に比較してください。

PRPを受ければ人工股関節を避けられますか?

人工股関節を必ず避けられる治療ではありません。病期や症状によって検討する場合がありますが、高度に進行した股関節症では手術がより適切な場合があります。

セカンドオピニオンを受けるのは失礼ではありませんか?

失礼ではありません。人工股関節という大きな治療について理解を深め、自分自身が納得して決断するために、別の医師の意見を聞くことは一つの方法です。

人工股関節を受ける一番よいタイミングはいつですか?

年齢やレントゲンだけでは決まりません。痛みや機能障害が生活の質へ大きく影響し、適切な保存療法で十分な改善が得られず、手術による利益がリスクを上回ると判断されるときに検討します。

この記事の監修

阿部整形外科クリニック
院長 阿部 瑞洋

整形外科医・股関節専門医

股関節の診断、保存療法、運動器リハビリテーション、再生医療などに取り組んでいます。「自分や家族ならどうするか」という視点を大切にし、必要な手術は適切に提案しながら、手術以外の選択肢がある患者さんには複数の方法を提示し、一緒に治療方針を考える診療を大切にしています。

※本記事は一般的な医学情報を提供するものであり、個別の診断や治療効果を保証するものではありません。人工股関節置換術、保存療法、再生医療などの適応は患者さんごとに異なります。

参考資料

  • 日本整形外科学会「変形性股関節症」
  • AAOS:Management of Osteoarthritis of the Hip Clinical Practice Guideline
  • ACR / AAHKS:Optimal Timing of Elective Hip or Knee Arthroplasty Guideline
  • NICE:Osteoarthritis in over 16s: diagnosis and management
  • Almutairi AN, et al. Efficacy and Safety of Platelet-Rich Plasma Intra-articular Injections in Hip Osteoarthritis. 2024.
  • Topaloglu M, et al. Effect of platelet-rich plasma injections versus placebo in patients with hip osteoarthritis. 2024.
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